物語1

□神官クリフト
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「ク、クリフト様!」

意を決したように、一人の女の子が群れから声をかけた。
他の女の子達も、期待を込めた視線をクリフトに送っている。

クリフトは一瞬たじろいだが、コホン、と咳払いをすると
「なんでしょうか?」

そのままの、聖職者らしからぬ無愛想な面持ちで返事をした。

「あっ、あの、そのぅ・・・。ク、クリフト様に、『想い人』はいらっしゃるのですか!?」
「!!」

あまりにストレートな質問に、クリフトは面食らった。

な、なんて答えればいいんだ・・・。
言えるはずがない、自分の想い人は『アリーナ姫様』だなんて。

しかし、聖職者の自分が嘘をつくのも躊躇われる。

姫様にご迷惑がかからず、かつ自分の想いもばれないような正しい答えは・・・

クリフトは頭のなかで懸命に考える。

「私の想い人は・・・。」
女の子たちは、期待と不安の入り交じった目でクリフトを見ている。

やはり、面倒だ!
だいたい、なぜこのような質問に答える義務があるのだ!
一体、私に何を求めているのだ。

クリフトはまた、無愛想な顔になり
「そのような質問は、今後慎んで下さい。私はまだ未熟者ですし、今はこの神官の仕事を一生懸命やりたいのです。」

そう言い放つなり、女の子の群れに背を向けた。

「あっ、クリフト様・・・!」
女の子たちからは、ため息が漏れたが、
「でも、今日はお声を聞けたわね。」
「『想い人』がいるとも、いないともおっしゃらなかったわ。これは私たちにも可能性があるってことよ!」
「はぁ〜、仕事に生きる男の人って素敵!私もシスターになろうかしら♪」
「あなたじゃ無理よ、あはは!」
和やかな会話が聞こえてきた。


「はぁ・・・。」
ため息をつくクリフトに、神父長が笑いながら声をかけた。

「何を悩んでいるのです。あのような若い女性たちに興味を持たれるなど、世の男性の望みを叶えているというのに。」

「!!神父長、私は・・・。」

クリフトは敬愛する神父長のからかいに、少し肩をいからせながら息巻いた。

「あのような女性に興味を持たれずとも、ととと。・・・なんでもありません。しかし、私はまだまだ未熟者ゆえ、あのような質問には返答に困るのです。」

「困る理由でも?聖職者に想い人がいてはいけない決まりはありませんよ。」

神父長の諭すような物言いに、クリフトは少し安らぎを覚えながらも、これだけは誰にも言うことが出来なかった。
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