物語1

□サラン
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困惑した顔の神父とシスターに気付き、クリフトは

「・・・姫様。サランには、おいしいパン屋さんがあったのです。よく母と食べました。お供えしたいのですが、買いに行ってもよいでしょうか?」
「うん!行く!!」
「では、行って参ります。」
神父とブライに告げ、アリーナと二人でパン屋に向かう。


「・・・気配りの良さまで、あの方に似て。」
「察しのいいクリフトのこと、何か気付いてはいないのですか?」
「大丈夫じゃ。あの方の記録は抹消した。もはやあの方のことを知るのは、王と少しの大臣、わしらだけじゃ。」
「クリフトには平凡な幸せを願っていたマリアでしたからね。あの子の才能で、今や城付きの神官ですけど・・・。」

「あの方も、あれ以来一切連絡はない。お幸せであればいいが。」
「今やあの国は平和主義国家じゃ。他国の干渉も受けず、穏やかに暮らしておるじゃろう。」


だれもが、そう願うだけで、そんな人ではないとは口にできなかった。

誰よりも妻を愛し、産まれたばかりの子供を可愛がっていた。
聖職者であるがゆえに、なかなか結ばれなかった二人に、やっと訪れた幸せ。
その絶頂の最中、彼は他国に旅立ったのだ。
最愛の妻と離縁し、幼子を残して。

どんなに辛いことだっただろう。どうやって過ごしているのだろう。
あの国が、平和になったとしても、彼の心は穏やかだっただろうか。

自ら進んで鍬を持ち、畑を耕し、それに没頭することで、悲しみから逃れているような気がする。
マリアが生きていたとき、送られた野菜は、きっと彼が作ったのだろう。

愛する人の、血と肉となるように。
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