物語1
□クリフトの母と父
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3歳のクリフトは、秀でた才能を現しはじめた。
字を覚え、賛美歌を一度聞いただけで完璧に歌いこなす。
本にも親しみ、4歳になるころには、同じような年ごろの子供が読む絵本等ではなく、聖書を暗記したり、勉強をするようになった。
その時の、神父の言葉が頭に焼き付いている。
「やはりあの方の血を引き継いでいるのか。」
あの方、とは、誰だろう。母のことは、「あの方」とは言わない。いつも「マリア」と呼んでいた。
もしかして、僕のお父さんのことを、しっているのー?
聞きたかったが、口に出すことはできなかった。
母の、悲しげな顔を思い出したからだ。
以前、母に聞いたことがある。「どうしてお父さんはいないの?」
その時の、母の、悲しみに満ちた顔。
その後、なんとか取り繕うと、無理に笑顔を作ってみせるが、言葉がでてこない。
その痛々しい姿に、クリフトは反省し、二度と父のことを訊ねなかった。
僕にはお母さんがいてくれる。それだけで、十分幸せだった。
クリフトは次第にサランの町で「神童」として有名になり、「ぜひ養子に迎えたい」「サントハイムの学校に入れてはどうか」という声がではじめた。
母は、そのいずれの話も断った。
「この子は、私の大事な子供です。私の一生をかけて、幸せにしたい子供です。ただ二人で平凡に、静かに暮らしたいだけなのです。」
もったいない、才能を潰す気か、と批判もあったが、母は頑として受け入れなかった。
母は、クリフトを、傍で愛したかった。
クリフトと離れるなんて、考えられなかった。
もうこれ以上、私から大切なひとを取り上げないで。才能なんてなくても、クリフトは私の大事な宝なのだから。