物語1

□アリーナと雷
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・・・だから、ブライやクリフトは、あんなにアリーナに過保護なのだ。

普段はそんなこと微塵も感じさせないアリーナの、弱い部分を知っている。まして、その時にアリーナを救えるのは自分だけ、となったら・・・。

神官のくせに天気をよみ、医学にも詳しいクリフト。アリーナのために知識を貯えたのだろう。
その愛の深さに、皆は今日だけは、彼らをからかったり覗いたりせず、そっとしておくことに決めた。


アリーナは、雷が光るたびに青ざめ、呼吸がくるしくなる。このまま死んでしまうんじゃないか・・・そんな恐縮と戦っていた。
人はたかが雷で、と思うだろう、 
でも、クリフトだけは、わかってくれる。
いつも心配症の彼がこの時ばかりは「大丈夫です。」といってくれる。
強く抱きしめ、自分の存在を確認させてくれる。
「クリフト、クリフト・・・。」それしか言えないのだが、自分の気持ちをわかってくれている。

「もう少しの辛抱です。風が強くなってきたので、雲も流れていくでしょう。」クリフトがそういうと、そんな気がしてくる。

もう少しだ、もう少し・・・。だから、気を確かにもって、そうすれば・・・。


雲が去っていく。
雷も、聞こえなくなった。
汗だくの二人は、ぎゅっと抱きしめあったまま。

「・・・よくご辛抱されましたね・・・。」
「クリフト、ありがとう・・・。私・・・。」

「・・・ホットミルク、冷めてしまいましたね。また温めましょうか。」
「うん。いつもありがとう。私、これを飲めば落ち着くんだっていつも思うんだけど・・・。まだまだ駄目ね。」

「いいえ、姫さまは、昔に比べてずいぶん落ち着かれました。心が強くなってきた証拠です。」
「・・・そうだといいんだけど。強くなれば、こわいものなんてなくなると思ってたけど、なくならないのね。」

「いいんです。弱い部分もひっくるめて、アリーナ様は尊いお方なのです。このクリフト、いついかなるときも、姫さまのお側におります。」

「クリフト・・・。」

アリーナはクリフトの熱をもった視線で我に返り、急に赤面する。

「なっ、なんかお腹すいちゃったなー、クリフト、ホットミルクじゃなくて、なんか食べたいなー。」

そういわれて、ミルクを温めることを忘れ、しっかりとアリーナを抱き締めたままの自分に気付き、クリフトも赤面する。

「しっ、失礼しました!では、食堂に降りていきましょうか!ブライ様も心配なさっているでしょうし!!」
「そっそうねー!」

そして二人で食堂に降りていく。
お互いに赤面しあい、視線を漂わせている二人をからかわないのも不自然と思われたが、

「お、おう。どうした?」「お、お腹すいちゃって。なんかないかなー?」
「そ、そうね、ご飯にしましょ!私、今日は飲みたい気分だわ!」
「・・・いつも飲んでるじゃない。」

「よかった・・・。よう堪えられましたな・・・。」
ぎこちない皆をよそに、アリーナが戻ったことを一人安堵するブライだった。

  
         おわり
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