物語1

□ピアノの発表会(幼少期設定)
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-----僕は、姫さまの練習相手でしかないんだ。
-----本番は、僕は、姫さまの隣にはいられないんだ。


クリフト少年は、涙がこぼれぬよう、ぐっと空をにらんだ。


アリーナ姫様のご学友として、毎日一緒に色々な授業を受けている。
それは、クリフトが「サントハイムきっての神童」と言われ、王の目にとまったこともあるが、
何よりアリーナ本人が望んだことだった。

「クリフトと一緒ならやる。」
クリフトは唯一の友達だし、自分をわかってくれる。何につまずいているのか、何がわからないのか、自分で気付かないことも、クリフトは理解し、励まし、教え、支えてくれる。
だから、逃げ出したくなる授業も、なんとかこなしてこれた。

ピアノもそうだ。「王女のご趣味」という名目でやらさられているが、そんなもの自分の趣味ではない。
だったら、好きな乗馬や武道のほうが、よほど役にたつ趣味だろう・・・。
そう渋っていたのだが、

クリフトの上達に目を奪われた。

教会で賛美歌を歌ったりして、音楽には親しんでいた彼だったが、ピアノを弾くとなると違った。
左利きの彼には、右手が主旋律となるピアノは難しく、最初はアリーナよりも指が動かなかった。

しかし、真面目な彼のこと、授業が終わったあとも一人残り、練習したのだろう。もはやアリーナには追い付かないレベルにまで達していた。

「すごいじゃないクリフト、いつの間にそんなに弾けるようになったの?」
「・・・実は、先に先生から2ヶ月後に、諸外国の方を招いたパーティーで、姫さまと僕が連弾を披露すると聞かされていたのです。・・・。姫さまに恥をかかすわけにはいきませんから・・・。」
「私のために練習してくれていたの!?クリフト、ありがとう!」
「う、うわっ、ひ、姫さま、抱きつかれては困ります・・・。」
「どうして?いつもしてるじゃない。」
「先ほど、貴族の方がおっしゃられたのです。僕は12歳、姫さまは10歳になられました。・・・あまり姫さまにくっつかぬように、と。」
顔をぷくーっと膨らませながら、姫は憤慨して言う。「なにそれ!そんなの、私たちの勝手じゃないの!クリフト、気にすることないわ。だいたいクリフトじゃなく、私に言えばいいのよ。」

姫の気持ちを嬉しく思いながらも、クリフトもまた、このままではいられないのだと感じていた頃だった。
でも!今は、2ヶ月後の発表会に向け、二人で練習あるのみ。クリフトはアリーナを優しく諭し、ピアノの前に座らせた。

「皆さんをびっくりさせましょう。」
「そうね、なんだか燃えてきたわ。・・・クリフト、ここはどう弾くの?」


そして、二人で練習に打ち込んだ。王もとても喜んだ。まさかアリーナが、こんなに女性らしい趣味に打ち込んでくれるとは。
今のうちに、ダンスやフラワーアレンジメントなどもやらせてみようか。
クリフトには酷だが・・・。あいつなら、また器用に花など活けるだろう。

-----そうして、発表会前日・・・。

「いよいよ明日ね!クリフトとの息もぴったりだし、ドキドキするけど、大丈夫よね。」
「はい、もちろんです。姫さま、本当に上達されました。明日が楽しみですね。」
クリフトにそういわれると、そんな気がしてくる。彼が一番、私のことをわかってくれる。そんな彼が言うのだから、大丈夫だ。
「頑張りましょうね!じゃあ、明日ね!」


-----しかし、発表会には、クリフトはあらわれなかった。
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