物語1
□神官クリフト2『大丈夫』
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「・・・・・。」
私は静かに、神父様の言葉を待った。
神父様は何か思案しているようで、
でも、決心したように話しだす。
「・・・私達には、何も出来ないのですよ。」
「えっ?」
予想外の言葉に、私は思わず顔を上げる。
そんな・・・。
だったら、私達は、どうして・・・。
自分の存在意義を見失った私に、神父様は続ける。
「クリフト。あなたは、今まで努力に努力を重ねてここまで来た。大抵の事は何とかなった。それは、素晴らしい事です。」
「しかし、・・・今回のように生死に関わる事は、私達にはどうする事も出来ない。それは、その人に与えられた試練であり、運命だから・・・。それでも。」
「私達は、心に寄り添う事は出来る。『大丈夫』という言葉は、責任を伴う事もあるけれども・・・。とても強い言葉です。」
私は、あの時の男の子の顔を思い出す。
私が「大丈夫ですよ」と声を掛けたとき、あの男の子の顔はぱっと晴れて・・・。
神父様も頷きながら、
「きっとあの子は、前向きな気持ちでペットとの最期の時間を過ごせたのでしょう・・・。」
でも、私はそのペットの状態を知らなかった。
知らないくせに、大丈夫だなんて軽はずみな事を・・・。
私の顔がまた曇るのを、神父様は慰めて下さる。
「私達の領域を越えるものについては、然るべきところへのアドバイスが必要でしょうね。」
「・・・例えば、ここには沢山の子育てに悩む若いお母さんもやってきます。『なかなか話さない。』『発達が遅いのではないか。』という悩みに、私が『大丈夫』ということは無責任だと思っています。」
「言葉の遅い子供は、耳が不自由な事もあるし、発達障がいの場合もある。エジソンやアインシュタインのように大天才になる場合もありますが・・・。然るべき検査をし、それが原因だとわかれば然るべき訓練をする事ができる。その可能性を消してしまうような『大丈夫』は、使わない方がいい。」
知ることが大事なんだ。
私は神父様に頷く。
「・・・悲しみや失敗からは、沢山の事を学べますよ。生きている限り、チャンスはあるのです。ほら・・・。」
「・・・え?」
私は神父様の視線の先に、振り返る。
「あっ・・・。」
見ると、さっきの男の子が黒い服に着替え、母親と一緒に立っていた。