物語1

□幸福な王子2
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「・・・・・。」


無言のまま自分を見つめるクリフトから、アリーナは目を逸らす。


自分は、クリフトがどんなに大変かわかっている。
自分と結婚した為に、王となり、どんな思いで公務についているのか・・・。
自分がクルトに向き合う為に、クリフトは一人で・・・



でも、それはわかっているし、感謝しているのだ。



「クリフトには、私の気持ちはわからない・・・。」


アリーナは、駄々をこねる子どものように繰り返した。


クリフトは、そんなアリーナを引き寄せ、強く抱き締める。


「いやっ・・・!!」

アリーナはクリフトから離れようとするが、


それでもクリフトは、アリーナを強く抱き締める。


「・・・あなたがどんなにわかっていないと言い張っても・・・。」
「私は、あなたをわかりたいと思っていますよ。」


「・・・・・クリフト。」


・・・そうだ。
いつも、クリフトはそう、自分さえよくわからない感情を、理解しようとしてくれている。



「何か、あったのですが?」


クリフトはもう一度アリーナに訊ねる。



「あのね・・・。」



アリーナは話しだす。

先生から「もっと」と言われ、疲れたこと。


「それは、あなたがちゃんと言えば出来るから、そして、それがクルトに必要だからでしょう?」
「あの教室で発音がすごく上手な子だって、親子で相当な努力をしたのでしょう。」

「・・・・・。」



わかっている。そんなことは十分、わかっているのだ。

アリーナは、少し苦笑いを浮かべながら、話しを続ける。


いつまでこの『もっと』が続くのか・・・。
クルトの将来は・・・。
健聴のマーニャの娘と比べると、どんどん差が・・・。 



「人は、生きているかぎりどんな人でも『もっと』と努力しますよ。」
「クルトの将来は・・・。今頑張れば、今後も頑張り続けていれば、きっと大丈夫ですよ。」
「人と比べて、なんの意味があるんです。」


「・・・・・。」



もっともらしく語るクリフトに、アリーナはため息をつく。


こういう話しを理解してくれるのは、同じ境遇の母親だということも理解しはじめていた。
男脳と女脳の違いとでもいうのか・・・。
アドバイスが欲しい訳ではなく、気持ちを理解して欲しいのだ。
この辛さに、共感して欲しい・・・。




「・・・そうね。」

無理矢理納得する素振りをみせるアリーナに、クリフトも苛立ち始める。


「だったら、何も悩む事もない!・・・こんな幼いクルトに手をあげることもない!!」

「!!」


アリーナはキッと、クリフトを睨む。

「そんなこと、わかってるわよ!!・・・私だって、好きでこんなこと・・・っ!!」
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