物語1

□幸福な王子2
2ページ/7ページ

アリーナはクルトと手を合わせ、

「いただきまーす!」
「いあ、あーぅ!!」


・・・クルトの発音が少し気になったけど、
頬を赤くしながらも健気に手を合わせるクルトに、頷いて小魚を差し出した。



・・・これが、私の努力が足りないという事なのかしら・・・。


アリーナは少し悩むが、嫌いな小魚もアリーナの顔色を伺いながら、頑張って食べているクルトにこれ以上強いられない。



「・・・ごめんね。」


アリーナはまた小さく呟き、自分も小魚を口に運ぶ。




「・・・おいしいね。」




・・・自分がどんなに恵まれているか。
共に言葉の教室に通う母親達の会話から、アリーナは思い知っていた。



同居の舅や姑達にきつく言われている人、夫の協力を得られない人、近所の人から中傷を受けている人、お金がなく教室に通えず、泣く泣く子供を寮に入れた人・・・



それでも母親達は、我が子の為に・・・。


母親達や先生は、自分を王女だからと遠慮したりせず輪に入れてくれた。
客観的に自分とクルトを見て、成長を誉めてくれたりアドバイスしてくれたり・・・。


自分は、恵まれているのだ。


心から、そう思う。
そう思うのだけど・・・。








・・・今日のように。
クルトを叩いてしまった・・・。



その罪悪感に苛まれながら、
アリーナはクルトの寝顔にまた、



「・・・ごめんね。」


まだ少し赤みの残った頬を撫でながら、呟いた。




「・・・本当に・・・。」



その時。
クリフトが、公務を終えて部屋に帰ってきた。


「・・・どうか、しましたか?」

疲れた顔の夫に、アリーナはまた何か問題が起きたのだと気付く。


「・・・クリフトこそ。何かあったの?」

「・・・ええ。」

クリフトはクルトの側に倒れるように横になると、

「テンペの民に、まだあの時の事を恨んでいる者が・・・。国に補償を求めています。確かに、こちらにも不備はあったのですが・・・。どうしたらいいのか。」

クリフトはため息をつきながら、


「・・・・・?」


クルトの頬の赤みに気付いた。


「・・・アリーナ。」


クリフトの咎めるような視線に耐えられず、
堰を切ったように、感情が溢れだす。



「・・・だって、私だって、辛いのよ!!」

「毎日毎日、『もっと』『もっと』『もっと』・・・!!いつまでこの、『もっと』が続くの!?」

「・・・もう、頑張れないわよ。クルトだって・・・!!こんなに頑張っているのに、健聴の子供とは差が開いていく一方だわ!!マーニャの子供なんて、何の苦労もなしに・・・っ。」


「ホイミ。」


アリーナの言葉を遮るようにクルトに回復呪文をかけるクリフトに、アリーナは苛立ちをぶつける。


「私だって、ホイミが使えたら!!クリフトに、私の気持ちはわからないわ!!」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ