物語1
□幸福な王子2
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アリーナはクルトと手を合わせ、
「いただきまーす!」
「いあ、あーぅ!!」
・・・クルトの発音が少し気になったけど、
頬を赤くしながらも健気に手を合わせるクルトに、頷いて小魚を差し出した。
・・・これが、私の努力が足りないという事なのかしら・・・。
アリーナは少し悩むが、嫌いな小魚もアリーナの顔色を伺いながら、頑張って食べているクルトにこれ以上強いられない。
「・・・ごめんね。」
アリーナはまた小さく呟き、自分も小魚を口に運ぶ。
「・・・おいしいね。」
・・・自分がどんなに恵まれているか。
共に言葉の教室に通う母親達の会話から、アリーナは思い知っていた。
同居の舅や姑達にきつく言われている人、夫の協力を得られない人、近所の人から中傷を受けている人、お金がなく教室に通えず、泣く泣く子供を寮に入れた人・・・
それでも母親達は、我が子の為に・・・。
母親達や先生は、自分を王女だからと遠慮したりせず輪に入れてくれた。
客観的に自分とクルトを見て、成長を誉めてくれたりアドバイスしてくれたり・・・。
自分は、恵まれているのだ。
心から、そう思う。
そう思うのだけど・・・。
・・・今日のように。
クルトを叩いてしまった・・・。
その罪悪感に苛まれながら、
アリーナはクルトの寝顔にまた、
「・・・ごめんね。」
まだ少し赤みの残った頬を撫でながら、呟いた。
「・・・本当に・・・。」
その時。
クリフトが、公務を終えて部屋に帰ってきた。
「・・・どうか、しましたか?」
疲れた顔の夫に、アリーナはまた何か問題が起きたのだと気付く。
「・・・クリフトこそ。何かあったの?」
「・・・ええ。」
クリフトはクルトの側に倒れるように横になると、
「テンペの民に、まだあの時の事を恨んでいる者が・・・。国に補償を求めています。確かに、こちらにも不備はあったのですが・・・。どうしたらいいのか。」
クリフトはため息をつきながら、
「・・・・・?」
クルトの頬の赤みに気付いた。
「・・・アリーナ。」
クリフトの咎めるような視線に耐えられず、
堰を切ったように、感情が溢れだす。
「・・・だって、私だって、辛いのよ!!」
「毎日毎日、『もっと』『もっと』『もっと』・・・!!いつまでこの、『もっと』が続くの!?」
「・・・もう、頑張れないわよ。クルトだって・・・!!こんなに頑張っているのに、健聴の子供とは差が開いていく一方だわ!!マーニャの子供なんて、何の苦労もなしに・・・っ。」
「ホイミ。」
アリーナの言葉を遮るようにクルトに回復呪文をかけるクリフトに、アリーナは苛立ちをぶつける。
「私だって、ホイミが使えたら!!クリフトに、私の気持ちはわからないわ!!」