物語1

□幸福な王子
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「・・・・・どうして。」





「どうして、この子が・・・。」






アリーナは、我が子を抱き締めながら、溢れる涙を必死に堪えようとするが・・・



なかなか、言葉を話さない息子に一抹の不安を抱えながら、
しかし、言葉はなくても物事を理解し、他の同じ年頃の子供達と何ら変わらない行動をする・・・
その息子に、今日は、明日こそは、と願い、アリーナなりに一生懸命育ててきた。



しかし。
まさか・・・。





耳が、聞こえていなかった、だなんて・・・。



気付いてやれなかった自分が、そう産んでしまった自分が、許せなかった。



溢れる涙は、抱き締めた息子の頬に伝う。


息子は、言葉を理解していないのに・・・。
母を、心配そうに見上げる。


「オッ、オッ・・・。」
喃語を繰り返し、母の涙を拭く。




「クルト・・・!」

そうだ、この子は、こんなにも優しい子だったのだ。そして、賢い子だったのだ。だから、気付くのが遅れてしまった。



「クルト・・・。」



医者の話を聞いて絶句していたクリフトが、息子の頭を撫でる。

耳が、聞こえていないとわかっても。

この子は、相変わらずの、愛しい息子。

愛しい人との間に産まれてきてくれた、
愛しい息子なのだ。






「クルト、クリフト、ごめんなさい・・・!!」


堰を切ったように、アリーナが二人に謝罪する。


「私、気付いてやれなくて・・・、ちゃんと、産んでやれなくて・・・!母親失格だわ!!」


泣き叫ぶアリーナの肩を、その腕の中にいるクルトを、クリフトは強く抱き締める。
 


「何を言うんですか、アリーナ!・・・あなたがそんなことを、言う必要はない・・・!!そんなふうに、思う必要もない!!」



「・・・・・!!」



そして、クリフトは医者に向き直る。




「この子の為に、何かしてやれることは・・・?」



「教育です。このことを受け入れるのは本当にお辛いでしょうが、教育の道に入るのは、早ければ早いほど良いのです。」
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