頂き物・捧げ物(SS)
□『wisper』
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『wisper』
穢れなき常盤色の法衣を纏い、陽の光の下で微笑む私は。
闇に紛れて、漆黒の衣に身を包む。
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もう何度同じ事を繰り返したのか。
初めのうちこそ自らの手で犯す罪の大きさに震えもしたが、
いつしか余計な感情は麻痺して意識の深淵に沈み込む。
ただいつもの手順を抜かりなくこなすために。
私は彼が一人でいる部屋に慣れた身のこなしで忍んだ。
「……!君は……!?」
「お静かに。秘密裏に貴方に言伝(ことづて)をお持ちしたのです」
突然の闖入者に驚いた顔をするものの、
私がにっこりと微笑んでみせると彼は警戒心を解いて大きく息をついた。
『秘密裏の言伝』……私を見知っている彼は
おそらくその相手を勘違いしているのだろう。
幸せな勘違い。
私は微笑を浮かべたまま彼にゆっくりと近づく。
そっとその肩に手を置いて、耳元に唇を寄せて。
「 」
一言囁いたと同時に彼の体が強張った。
弾かれたように私から飛びのくと、
目を見開いて、囁きを受けた耳を押さえて。
「な……貴様………ぁ…がぁあっ!?」
立ち尽くす彼を、滴る鮮血の魔法陣がぐるりと取り囲んで光を放つ。
信じられないといった表情を私は微笑んだまま一蹴した。
『救いなどないよ。
仕方ないだろう?貴方は報いを受けるべきなのだから』
一つ指を鳴らすと、ひときわ強く、禍々しく輝いた魔法陣は
何本もの赤黒い光の触手に姿を変え
捕らえた獲物の全身に絡みつき、吸い込まれて消えた。
喉元を押さえ脂汗を流してゆっくりと膝をついた彼。
私を見上げてにらみつける疑問と憤怒の視線を
口元に浮かべた薄笑いと嘲りの視線で返してやった。
「……もう声は出ないでしょう?たった今、
喉や声帯は焼けてしまったはずですから。
私の用は済みました。お言伝、確かにお届けしましたよ?
…どうぞ貴方に残された最期の一時を存分に楽しまれますよう」
うやうやしくお辞儀をし、背を向ける。
声にならない悲鳴に見送られ、私はさっさと退室した。