頂き物・捧げ物(SS)

□「王女の宣誓」
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廃墟と成り果てたサントハイム城。我が者顔でのさばっていた魔物達を一掃したが、行方の知れないサントハイム城の者達が戻る事は無かった。
本懐を遂げたモンバーバラの姉妹を笑顔で労いながらも城しか取り戻せなかった自分達の心は消沈しているであろうサントハイム組をそっとしておきたい。勇者の計らいに感謝しつつ、サントハイムに残された三つの希望、アリーナ姫と魔法使いブライ、そして神官クリフトは久し振りの我が家とも言うべき城で思い思いの時間を過ごしていた。

「クリフト、あったわ!!」
教会に駆けて来るアリーナを見ていると、旅立つ前に時間が戻ってしまったかのような錯覚を覚える。クリフトは昔は当たり前のように何時も行っていた所作でアリーナを迎えた。
「何時もお元気そうで何よりです、姫様。今日もこのような所まで御足労戴き…」
「挨拶は後々!!」
アリーナもまたその頃と同じように幼馴染の礼儀正しい挨拶を遮ると、その手にある物を差し出した。
「ほら、残っていたわ!お城がこんな状態だからもしかしたら何処かに行っちゃったかもって心配だったけど」
「これは……」
目を見張るクリフトに嬉しそうに頷きながら、アリーナは大切そうに手にする物を胸に抱く。
「うん」
アリーナは微笑むと今は少し茶色くなってしまった白薔薇柄の便箋で躍る自身の名前を指で辿った。
「そう、ママからのお手紙」

「王妃様のお手紙」
クリフトは目を細めて遥か昔に何度かお会いする事が許された王妃の文字を眼で追う。
優雅な振る舞いと笑顔は幼い自分には眩しすぎ、殆どその御尊顔を窺う事は出来なかったが、何時も娘アリーナ姫を想い、夫である国王の愛情に感謝されておられた王妃の優しい愛がこの手紙にもしっかりと息づいている。娘の未来を思い、夫の愛に感謝し、そして、臣下に過ぎない自分に関する記述も其処にはあった。
「ママが私に遺してくれた手紙……、貰った時は半分も意味が解らなかったけど、今なら少しは理解出来るわ」
アリーナははにかんだ笑顔を見せると真直ぐにクリフトを見上げた。
「私一人が不幸な訳じゃない。一緒に旅をする皆だって何かを抱えてる。だけど前だけを見て歩いてる。だから私も負けないの、ママと同じように運命と戦い抜く。大事な旅の仲間を守り、大切なサントハイムの家族達を取り戻すわ。どんなに時間が掛かってもね」
「姫様……ご立派です」
「そして、その後は大切な人との結婚、かな?ママだって私の幸せな結婚を望んでいるしね」
どんな反応を見せてくれるのだろう。アリーナは少し頬を染めてクリフトを窺う。
だが、その当のクリフトは。
「ひっ、姫様にはもうそのような方に心当たりが……?!確かに王妃様も姫様が父王様のような御方と結婚される事を望まれていらっしゃるようだが……、くうっ、何処の誰なんだ、その幸せな奴は……!!」
鼻息荒く叫ぶクリフトにがっかりした表情で溜息を吐いたアリーナは、一人妄想の世界に飛び、物々と何やら物騒な事を呟いているクリフトから母の手紙を取り上げるとそれを眺めながら小さな声で報告した。
「こっちもまだ時間が掛かりそうよ、ママ。優しいのは相変わらずだけど鈍い人だから」
アリーナは手紙を大切そうに握ったまま大きく息を吸い込むと、身の丈よりも数十倍高い、サントハイムの紋章と王国の成り立ちが絵巻で綴られている天井へと声を張り上げる。
「次にこのお城に帰る時は私の大好きな皆と一緒だからね!だから待ってて、サントハイム城!!」
アリーナは大きく外套を翻すと今度は漸く我に返ったクリフトに微笑んだ。
「勿論、あなたもその一人だからね。大好きよ、クリフト」
「えっ?ええっ?!あっ、は、はい!!(そ、それって期待して良いのかな……ドキドキ。私も大好きです、姫様〜!!)」
「もう〜、変な声〜!それに返事だけなのに何でそんなにほっぺが赤くなっているのよ〜」
上擦った声を上げるクリフトに苦笑するアリーナの胸にある王妃の手紙は、そんな二人を応援するかのように小さく揺れている。


     おわり



〜おまけ〜

「ちっ、ちなみに姫様はどのような方と結婚をされたいとお望みなのです?(優しい人とか自分を一番愛してくれる人とかなら私にもチャンスが…!)」
「え〜、聞きたい?それはね、(クリフトみたいに)私よりも(心の)強い人かな!」
「つ、強い人、ですか……(無理だ、私には無理だ〜〜!!)」


     ほんとにおわり





     →阿月さんへ♪
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