頂き物・捧げ物(SS)
□「魔法の料理(クリアリversion)」
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恋しい人の渾身の手料理をひとくち食べて、それがとんでもなく摩訶不思議な味だったら、どうしますか?
どうしたらいいのでしょう。
誰か、教えて下さい・・・。
「さあ、出来たわ!今日は初めて作ったグリーンソースを和えてみたのよ。
どうぞ、召し上がれ!」
グリーンソースという名の割には緑色じゃないことに、すこしも疑問を抱かなかったかと言えば嘘になる。
けど、料理なんて見た目で味が決まる訳じゃないし、大体があの方の作る料理には、総じて造形美というものがない。
いつもぐちゃっとしている。
いや、ぐちゃっとは表現が悪いな。
ふわっとしている。
いや、ふわっとはしてないな。どっちかといえばどろっと……まあいいや。
そんなわけで、恐る恐るスプーンを突っ込んで、正体不明の謎の物質を思い切って口に入れるまで、
私はいつもその日の献立の食材がなんなのかすら、まったく解らない(時々、口に入れても解らない)。
ある意味冒険だ。
冒険の旅はもう終わったけど、テーブルと椅子の上で時折繰り返される、見果てぬ冒険だ。
けど、知ってるんだ。
このはぐれメタルみたいな(これ、ずばりな表現です)謎の料理のために、あの方が何時間も台所で格闘していたこと。
手に切り傷をたくさんこしらえて、火傷して、なぜか額に大きなたんこぶまで作ってたこと。
……最近の料理ってのは、頭突きでも使うのでしょうか?
とにかく、あの方の苦労と努力の賜物が、このはぐれメタル……もとい、ふわっとどろっとした料理というわけです。
緑じゃないグリーンソース。
たとえ、はぐれメタルそのものだとしたって食べてみせましょう。
食べたい、という気持ちはそのまま、生きたい、という気持ちの表裏。
命をはぐくむ食べ物を身体に入れる幸せを私に取り戻してくれたのは、あの方なのです。
ミントスで病に倒れ、何も口にすることが出来なくなった私に、パテキアを、口移しで・・・・・ぽっ。
・・・あっ、こ、これは、もしかしたら幻だったのかもしれないのですが、
何にせよ、私の命を救って下さったのは姫様なのです。
だから食べてやる。
どんな味だってかかって来いだ。
気付かれないように鼻をつまむとか、水で一気に流し込むとか、対処法は色々ありますし。
それにどんなにまずい……いや、個性的な料理を出されたって、最後はちゃんととっておきのデザートがあるから平気だ。
世界じゅうのどんな美味しい料理より、私が食べたいのはあなたなんだ。
アリーナ様。
あなたが私の生きる希望。
私の命。
……なんて、あの方には口が裂けても言えない。
言えないのです・・・・。
「・・・ぐふぐふっ!!・・・ごほんごほんっ!!」
「あら、クリフト風邪気味なの?しっかり食べて、栄養つけてね。」
「・・・は、はい。・・・み、水を・・・。ありがとうございます、ごっくんごっくん!!」
「うふふ。クリフトったら、そんなに飲み込むように慌てて食べなくても。まだ、こんなにお代わりがあるんだから、ゆっくり食べて。」
「・・・・・!!(あ、悪夢だ・・・。)」
「・・・ねぇ、クリフト。美味しい?」
「・・・もっ、もちろんにございます・・・。あの、その、なんというか。」
私は、言葉に詰まる。
な、なんて言えばいいんだ・・・。
しかし、目の前の。
目を輝かせながら、期待して私の返事を待っている、姫様のお顔。
なんて、可愛らしいのだろう・・・。
「・・・姫様とこうして居られることが、幸せです。」
・・・ああ、つい本音が。
私は、恥ずかしくなって俯いたまま、料理を口にかけ込む。
「・・・私も、そう思っていたの。これからも、時折こうして・・・。ううん、時折じゃなくて、毎日、クリフトと・・・。」
「!!」
私は、はっと顔を上げる。
「・・・ひ、姫様、今、なんて・・・?」
姫様は心なしか、真っ赤な顔をしながら、
「もうっ、クリフトったら鈍感なんだから!!・・・毎日こうして、ご飯食べさせて上げたいって言ったの!!」
スプーンで山盛りに料理を救うと、私の口に押し込む。
「〇@*&#%£!!(ひ、姫様っ、モゴモゴ!!)」
「・・・新婚さん、みたいでしょ?」
「!!」
・・・これはまた、幻か。
私は、スプーンをくわえたまま、椅子ごと倒れ気を失ってしまった。
「クリフトっ!クリフト、しっかりして!!」
「・・・一体何を、食べさせたんじゃ・・・。」
―FIN―