物語3
□「赤紙」
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「・・・・・!」
アリーナは今日も、急いでリストに目を通す。
王族の特権とはいえ、女の自分がこのリストを目にすることを快く思っていない大臣も多い。
「・・・・・!」
アリーナは息もするのを忘れ食い入るように目を凝らすが、
「・・・・・良かった。」
小さく呟く。
姫としては不謹慎極まりないが、
どうしても、
自分の愛しい人が戦地に赴く事が、堪えられない。
武術は好きだったが、戦争がこんなにも恐ろしいものだったとは思いもよらなかった。
最近ではその激しさも増し、サントハイムの領地にも攻撃を仕掛けられて負傷するものが増えている。
民は不安と悲しみを抱え・・・
姫として、しっかりしなくてはならない。
この先の見えない争いに、絶望しそうになる自分を支えてくれているのは・・・、
「クリフト。」
アリーナは教会を訪れる。
「姫様。」
クリフトは負傷した人々の手当てや、不安を抱える民達の対応に明け暮れながらも、
いつも穏やかな笑顔で自分を迎えてくれる。
「頼まれていた薬草、なんとか調達できたわよ。エンドールのモニカが手配してくれて・・・。」
「ああ、良かった。今回の負傷者は火薬の傷を負っている者が多く・・・。この薬草があれば早く傷も癒えるでしょう。姫様、本当にありがとうございます。」
クリフトは心から嬉しそうに、アリーナから薬草を受け取る。
「・・・人の事ばかり考えて。ちゃんとクリフトは食べて、休んでいるの?」
少し痩せたようなクリフトを、アリーナは心配そうに見上げる。
「・・・姫様こそ。今日はこんなに良いお天気で、いつもなら虫取りに明け暮れて真っ黒に日焼けしていらっしゃる筈なのに。」
城から一歩も出してもらえないアリーナを不憫に思いながら、クリフトは思い付いたように聖書に挟んでいた四つ葉のクローバーを取り出す。
「先日薬草を探していたら、これを見付けたのです。四つ葉のクローバーは幸せを運んでくれると言いますから、どうぞ姫様がお持ちになっていて下さい。本当はしおりにでもしてから渡したかったのですが・・・。」
クリフトは周りを見回し、困ったような笑顔を見せる。
「・・・うん、わかってる。クリフトは忙しいもんね。私ももう、部屋に戻るわ。自分でがんばってしおりにしてみる・・・ありがとう。」
互いに口早にしか話せないけど・・・
クリフトはサントハイムに必要な人だもの。
だから、きっと大丈夫。
これからもこうして、言葉は少なくても・・・
側に居られるはず。
「じゃあ、またね。」