物語1
□神官クリフト2『大丈夫』
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「お兄ちゃん・・・。さっきはごめんなさい。僕、悲しくて悲しくて・・・。八つ当たりしちゃったんだ。」
男の子を諭してきたのだろう、その母親はじっと静かに、様子を見守っている。
「・・・僕と、一緒にお祈りして欲しいんです。シロが、・・・安らかに・・・っ。・・・うっ、うわーん!」
「!」
私は思わずその男の子をひしと抱き締め、共に泣いてしまった。
小さな手が、私の神官服を握る。
そうだ、私は神官なんだ。
「・・・祈りましょう、共に。」
「・・・はい。」
私には何も出来ないけれど。
いつか、自信を持って『大丈夫』と言えるように。
その為に、沢山の事を知り、学ぼう。
「・・・お兄ちゃん、ありがとう。」
「神官様、ですよ。」
ずっとハラハラしていた様子の母親が、申し訳なさそうに男の子に注意する。
「あ・・・。ごめんなさい。なんだか神官様、お兄ちゃんみたいで。僕、お兄ちゃんが欲しかったんだよ!なのに妹や弟ばっかり出来て・・・。」
「ははっ、それは無理なお願いだね・・・。」
神父様は笑いながら、男の子の頭を撫でる。
「『大丈夫』だよ。君は立派なお兄ちゃんになれるから、神様は君をお兄ちゃんにしたんだよ。」
「・・・ほんと?」
男の子は少し誇らしげに、胸を張ってみせる。
「ええ、もちろん!」
これからもずっと、あなたが幸せでありますように。
私は今日も、祈り続ける。
そして・・・
「クリフトーっ!」
「姫様!」
いつも突然やってくるんだ、このお姫様は。
いつもこの声を心待ちにしている、なんて言えないのだけれど。
「ねぇ、何してるの?」
「もちろん、サントハイムの皆さんの幸せを願ってお祈りを・・・」
「じゃあ、私の事も祈ってくれていたのね!何て祈ってたの?『早く会いにきてくれますように』??」
「!!」
このお姫様は時に、私の心をズバリと言い当てる。
「そっ、そのようなっ、おこがましいことをっ、願っては・・・!」
「ふぅん。ま、いいわ。今日は何して遊ぶ!?」
あ、遊ぶって・・・。
私はもう、晴れて神官として働き始めているのですから、と言い掛けてちらりと神父様をみると、
「今日はいいお天気だから、ピクニックなんていかがでしょうか?クリフト、帰りに教会に飾る花を沢山摘んできて下さい。」
「・・・はい!!」
今日も平和で、なんて幸せなんだろう。
私は神父様の声を聞いて一目散に駆け出した姫様を必死に追い掛けながら、
今日という日を与えられたことを神に感謝致します・・・。
おわり
→あとがき