稲妻11 夢
□07
1ページ/1ページ
「あれ、おかしいな…」
──ぽつり ぽつり。
さっきまで晴れ渡っていた空は灰色の雲に埋め尽くされ、暖かった日差しの変わりに冷たい雨が降り始めていた。
傘は持ってきたはず、なんだけどなぁ。
「なんで無いのー…」
はぁ、と盛大なため息を一つ吐いて傘置き場を見下ろす。
全く、悪質な人もいるものだ。
今朝私が傘を置いたはずの場所はもぬけの殻。
そこにあったはずのピンクの傘は跡形もなく消えていた。
「あーあ」
あの傘、お気に入りだったのになあ。
でも捕られてしまったのなら仕方ない。
もう戻っては来ないだろう。
それよりも、問題はここからどうやって家に帰るかだ。
先ほどから雨は強さを増すばかりで一向に止む気配はない。
「……濡れて帰るしかない、か」
サッカー部が終わるのを待って鬼道くんの傘に入れてもらおうかとも考えたけど、流石にそれは図々しいだろうと思ってやめた。
それに、今日は先に帰るって言ってきちゃったし…。
制服が濡れてしまうけど、仕方ない。
あーぁ、こんなことになるなら明澄と一緒に帰れば良かった…。
今更後悔しても遅いんだけどね。
「よし、行こう」
覚悟を決めて、鞄を頭の上に置いて走り出す。
学校から家までは、走れば10分くらいで着くだろう。
うわぁ、制服濡れてきた。
お母さんに怒られるかなあ…。
「高城!?」
「へ?」
無我夢中で走っていると、後ろから呼び止められる。
驚いて振り向けば、そこには傘を片手に走ってくる鬼道くんが居た。
「鬼道くん!?」
状況が読み込めずに立ち止まっていると、はぁはぁと息を切らした鬼道くんが私を傘の中に入れてくれた。
え、なんで鬼道くんが?
「え、き、鬼道くん、部活は…」
「途中で帰らせてもらってきた」
「途中で…って、え、なんで!」
ふわりとタオルを被せてくれる鬼道くんに詰め寄る。
確か、練習試合が近いのだと聞いていた。
そんなときにチームの司令塔の鬼道くんが抜けてしまって良いのだろうか?
否、駄目だと思う。
「なんでって、高城が傘もささずに出ていくのが見えたからな。……全く、風邪でも引いたらどうするんだ」
「でも、練習じあ…い゛っ!」
反論しようとすると、鬼道くんにべしっと頭を叩かれた。
……じ、地味に痛い。
しかも鬼道くんため息吐いてるし。
「馬鹿、お前が風邪を引いたら俺が練習に集中できないだろう」
「え、」
「練習に出て欲しいなら、こんな無茶はするな。分かったな?」
「……は、はい」
素直に返事をすれば、鬼道くんはふっと笑って私の手を取った。
なんか、言いくるめられた気がする。
……けど、これって、相合い傘、だよね?
「………」
「高城?」
「あ、な、なんでもない!」
いつもより近い鬼道くんに緊張する。
制服が雨で濡れてしまっているから、あまりくっつくと鬼道くんまで濡れてしまうんだけど…。
「高城」
「へ? わっ、」
ぐいっと引き寄せられて、また鬼道くんとの距離が近くなる。
わあぁぁああ…、恥ずかしい…!
「き、ききき、鬼道くん!?」
「濡れないように、な」
「……っ、わ、分かってる」
ニヤリと笑う鬼道くんに顔が赤くなるのが分かる。
あーぁ、やっぱり明澄と一緒に帰れば良かったんだ。
相合傘
(嬉しいけど)
(今日の鬼道くんは意地悪だ)
管理人が傘を盗まれたので、腹いせに\(^o^)/←
鬼道くんみたいな人がいたら良かったのに。
あいにく管理人にはそんなかっこいい人はいませんでしたorz