【シーズンSS】

□元旦SS
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呆れた顔で見ていたアイアンハイドが、ふと気付いたようにオプティマスに話しかける。

「そういえばキューの爺さんが見当たらんな」

すると、その質問にはオプティマスよりも先にレノックスが答えた。

「ああ、キューならブレインズ達と武器庫だ。抱負は後でメッセージすると言っていた」

「また良からぬモンでも作ってるんじゃあるまいな」

アイアンハイドがジロリとレノックスを見るが、レノックスは肩を窄めて「さあな」と微笑んだだけだった。

「では、後はラチェットだけという事になるな」

オプティマスがそう言うと、全員の視線がいっせいに倉庫の一番奥で腕組みをしている軍医に集まった。

「ラチェット早く言えよ〜オレ外へ出たいんだ」
スキッズがジャズに転ばされたままの姿で叫ぶ。

「皆の体を一番に考えて〜とか、ベタなセリフはマジ勘弁な〜」
ジャズを捕まえようとして失敗し、つい先ほどドラム缶に突っ込んだマッドフラップがブスッとした顔でブツブツ呟いた。

するとラチェットの青いカメラアイが一瞬するどく光った。

―と、確かに全員がそう思った。

背筋に冷たい物が走る。
穏やだった空気が少々嫌なオーラに包まれ始めた時、ラチェットが静かに話し出した。

「まず1つ目に……」

『『―1つ目?』』

NESTの隊員もオートボットも嫌な予感でいっぱいだ。
しかし、そんな表情は元より承知と言わんばかりのラチェットは真面目な顔つきでその先を続けた。

「まず始めに、私はもう一歩“ 踏 み 込 ん だ ”研究と実験の許可をもらいたい。これはアメリカ政府にだけでなくオートボットの司令官にも、だ」

“ 踏み込んだ ”の部分をやけに強調したラチェットに、オプティマスが「え」という顔をするが、ラチェットは無視してその先を雄弁に語り出した。

「その上で!私がどのような実験を行おうとも、将来的には必ず必要となるデータである事を長い目で見て欲しい。オートボット、サイバトロン星はもちろん、地球にも有益である事を理解してもらいたい。さらに言えば、それには必然的に健康な献体が時に必要であり、私は常にその事に対して皆に理解を求めているが、今一つ、その解釈が間違われているように思えてならない。新しい年はそれを是正し、より良い実験結果と分解構築……いや、リペアのためにも若いトランスフォーマーの献体を集いたい」

そこに居た全てのトランスフォーマーが、思わずザザッと1歩後ろに下がった。

特に「若い」という言葉の部分で、ジャズ、サイドスワイプ、ディーノをはじめ、バンブルビーや双子までが顔に縦線が入ったかのように青ざめる。

「まだある」

全員が「えーっ」という表情になったのは言うまでもない。が、ラチェットは全く意に介さない。

「私のリペアに関する文句だが、間違って勝手な評価を付けられ誤解を招いている、断じてそうではない事を今ここでハッキリさせよう。だいたいだな、こちらにも言い分がある!忙しい合間にきっちり施術し、ペイントまで施してやっているというのに、翌日になるとやれ関節がおかしいだの、銃弾を受けて剥げただの文句を言うヤツ!今すぐここに出て来い!今後そういうバカ共は痛覚神経を切らずにリペアするからな!私がヒマだとでも思っているのかね?言っておくが……」「まぁまぁ……、ラチェット!……」

全員からのすがるような視線を受けたオプティマスが慌ててラチェットを遮った。

これはもう抱負ではなく、完全に個人的な希望とクレームである。
アイアンハイドの足元に隠れて腹を抱えて笑っているエップスを無視し、オプティマスはラチェットの方へと近づきながら、できるだけ刺激しないように話しかけた。

「そういった要望は、わたしの方でいつかゆっくり聞こう。今日は新しい年を迎えての“ 抱負 ”を……」「分かっていますよ!!だからこそです!」

オプティマスの言葉を畳み掛けるようにラチェットが叫んだ。
その勢いはたとえサイバトロンの司令官といえども、有無を言わさずの剣幕で……、オプティマスは本能的にアイアンハイドへと視線を投げかけた。

―― が、確かに今まで自分の横に居たはずのアイアンハイドが……居ない。

『逃げたな……』

オプティマスの顔が引きつった。

既に、他のトランスフォーマー達も逃げる気満々だったが、それを簡単に許すような軍医ではない。

「アイアンハイドはもちろん、今少しでもここから動いた奴は、この後すぐに強制定期健診を行うからな!」

そう言われてしまっては、もう逃げようもなく……。


その後もラチェットの鼻息は止まらなかった。

レノックスら人間達までとばっちりをバッチリ食らう羽目になったが、オプティマスは清々しい気持ちでいっぱいだったという。

新しい年を祝うこのイベントで、基本に戻り、初心を貫く事を表明し、それなりに素晴らしい新年の幕開けとなったらしい。

もちろん他の全員が「新年のイベントはもうこりごりだ」と思った事は知る由もない。




―Fin.



Happy new year!
I wish you best of LUCK.


願わくば、いつかオプティマス達が正しい日本の素敵なお正月のあり方を体験できますように。

(2012 01 22)

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