【キャラクター別】

□Ironhide
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[as of tears or sparks etc]




ひどい雨になった。

ビークルモードで市街から基地へと帰還する途中、今流行りの「ゲリラ雨」ってやつだ。

その水量と凄まじい水煙に、一般の車両は急に減速したり、中には路肩に停車する車まで出始めている。
確かにこの視界の悪い中での走行は、自らセンサーを持たぬ地球人には危険を伴うだろう。

そんな事を考えながら、アイアンハイドは走行ナビゲーションシステムをオートへと切り替えると、多分、人間の視力であれば数センチ先すら見えないようなこの土砂降りの中を、何の問題もなくこの国の交通法規制に従ったスピードで軽快に走行していた。

しばらくすると通信が入ってきた、オプティマスだ。

『アイアンハイド、報告を頼む』

「基地から北東に30キロ地点を通過した。時間内には問題なくそちらへ着く」

『そうか、何か変わった事はないか?』

「そうだな、ひどい雨に降られている。が、何の問題も無い。視界が悪いのでオートナビに切り替えて走行中だ」

『了解した‥くれぐれも気を付けて帰還してくれ』

「ああ大丈夫だ」

通信はそこで切れた。

ジャズと違って音楽などかける趣味もないから、車内は又土砂降りの雨音と自身のエンジン音だけが響き渡る。
自分のエンジン音よりも雨の音の方がすごいのだ、アイアンハイドはあらためて地球の「自然の力」というヤツに少々感心していた。


その時、熱源センサーが何かを探知した。距離にして1キロ半…真正面ということは、車道のど真ん中に何か熱源があるということだ。
この星で熱源といえば、まず頭に浮かぶのは「人」である。

事故など起こしては厄介なことになる、その辺りは出てくる際にもラチェットから再三注意を受け、アイアンハイドは閉口していた。

ゲリラ雨は、未だその勢いを衰えることなく凄まじい水しぶきとなってアイアンハイドのフロントガラスを叩いている。
とても目視で確認できる状況ではない。

…本来なら数キロ先まで確認できるカメラアイは全く役に立たず、アイアンハイドは舌打ちすると、オートを解除し減速した。
あともう数百メートルという地点でさらに減速する、もうほとんどスピードは出ていないと言っていいだろう。

熱源センサーにくっきりとしたシルエットが姿を現した。

『こいつは…』

アイアンハイドの脳裏にイヤな映像が浮かび上がった…数年前にも同じ形の生命体に出会っている。確か初めて地球に来た日だ、サムの家の庭だった…サムは「可愛い」と言っていたが、あの時確か、俺の足に異臭のする潤滑油を引っかけた…

「…犬とかいうヤツか」

思わず声に出た。それほどアイアンハイドにとってこの生き物は少々苦手な分野に入っていたのかもしれない。
しかもとても小さい、まだ幼いのであろうか?

既に、市街地の外へと出始めていた一本道は、後はもう基地のみへと続くだけだ。
幸か不幸か前後を走る車は1台も見当たらない。

アイアンハイドは数キロに渡り、周囲に近づくものがない事を確認すると、道路のど真ん中で雨に打たれている“犬”とかいう生き物の真横に停車した。

熱源がコチラを見る。コンクリを叩くものすごい雨音の中でアイアンハイドは確かにその生き物のか細い鳴き声を聞いた。
聞こうと思って聞いたわけではない、高性能の聴覚センサーが拾い上げてしまったのだ。

そのまま走り去るつもりだった、トラブルさえ起こさなければいいのだ。万が一、人が道路の真ん中にでも居てケガなどさせては大事になるので減速しただけだった。それだけだったのに。

たった1度だけ「クウン」と鳴いたその声は、小さく、今にもスパークが途絶えそうな鳴き声だったのだ。
アイアンハイドのブレイン回路が、こういったケースの回避選択肢をあげてゆく。しかし、アイアンハイドのスパークがそのどれをも一掃した。

『……』

しばらく様子を見ていたが仔犬は立ち去る様子がない。怪我でもしているのか‥と、簡単にスキャンをかけたが特に外傷もないようだ。エンジン音を上げて脅かしてみても逃げる様子もない。

『……』

既に辺りは暗闇に包まれていた。
雨の音と水煙がひどい道には、アイアンハイドのライトだけが太く青い光の筋となってまるでレーザーのように雨のしぶきの中を前方へと突きぬけている。

―なんで俺はこんな所で停まっている。人ではなかったのだ。後はもうこのまま基地へと向うだけではないか―

強く排気をふかすと、意を決してエンジンをスタートさせた。
このままでは定刻を過ぎてしまう。そうしたら今度はきっとラチェットから通信が入ってくるだろう、それだけは何としても避けたい。

小さなその生き物が、ゆっくりと動き出したアイアンハイドをじっと見つめている気がした。
どうせ周りに人はおらんとばかりに、アイアンハイドが大声で叫ぶ。

「おい!お前も早く家に帰れ」

雨粒がトップキックの黒いボディを叩く中、アイアンハイドはゆっくりと走り出した。




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