【シリーズもの】

□【良薬は口に・・】
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「ジャズちょうどよかった、ちょっと来てくれ」

「断る」

「先日のメンテナンスの件で」

「断る」

「………」


ラチェットの呼びかけに、足を止める気配すら見せないジャズ。

冗談じゃない。と内心ヒヤヒヤしながらジャズはさらに歩くスピードを速めた。

ラボの入口から遠ざかるジャズを静かに見送る冷ややかな視線。

しかし、ここで立ち止まってはダメだ。
検体にされ、この間のオプティマスの二の舞になるのは目に見えている。



先日、新たにラチェットが開発した試薬品(死薬品と皆は裏で言っている)を、次は誰が飲むことになるんだろうかと、オートボットの全員が恐々としていた。

ラボからあらかた遠ざかり、ラチェットの視線も無くなった頃、ジャズはやっと歩みを止めるとホッと肩をおろした。

と、その時である。
「おい」と、下ろしたばかりの肩を誰かに掴まれた。

思わずビクッとなるが、恐る恐る振り向けば、なんて事はないアイアンハイドが「どうした?」とばかりに怪訝な顔をして立っている。

「なんだ、アイアンハイドか……おどかすなよ」

「あ?……すまん。というか、お前背中に何かついてるぞ?」

「ぁ?……俺の背中に?」

ああ、と言ってアイアンハイドが何かをベリッと剥がす。

そして「なんだこりゃ?」と言いながら、剥がしたモノを覗きこんだとたんだった。
「おわぁっっ!」と叫び、叫んだついでに無理やり持っていたモノをジャズの手に押しつけると、ものすごい勢いでトランスフォームして走り去って行ってしまった。

「?なんなんだ、いったい……」

そう言いながら、たった今握らされた手の中の物にあらためて視線を移す。


!!!!!!!



思わず背筋が凍りついた。
紙切れに小瓶が張り付けてある。

メモ書きを読めば、ラチェットのクソまじめな文字で「5分以内に飲まないと爆発の恐れあり、飲んだらすぐに連絡しなさい」



なんだあぁぁぁぁっ!こりゃあああああぁぁぁっっ?!



いつ貼ったんだ!いつ?!などと思っているヒマもない。

何やら不穏な白い煙が小瓶からどんどん溢れだし、心なしかピンク色に輝く液体には光が射しこみ始めている。

「おいおい!!ちょっ、たんまっっ!」

助けを呼ぶほどの事でもないと認識しながらも、ジャズは本能的に周囲を見渡した。
もちろん周りを見渡しても誰も居ない、既に走り去って行ったアイアンハイドの姿すら見えない。

その時だった。

小瓶の中の液体が一瞬光を帯びたと思ったとたん。


バリンッッッッ!!!
どおおおぉぉぉん!!!


ものすごい爆発音と振動に、NEST基地内に駐在していた隊員達も何事かと腰を浮かせ、小さな煙が上がっている方向へと数人が駆け出した。


駈け出してすぐに、トランスフォーマーの居住区となっている扉のすぐ傍で、爆発の原因であろう物体を発見する。

既に、心配そうに煙の周りをオロオロしながら声をかけるバンブルビーの姿まである。

「どうしました?!いったいこれは……」

そう言いかけた隊員の1人は、モクモクと白い煙に包まれている右腕の主を見て「ぅっ」と後ずさった。

なんの爆発に巻き込まれたのであろうか、オートボットの副官が、バイザーの光を失ったまま、その場で棒立ちとなっている。

「大丈夫?ジャズ?怪我はない?」

バンブルビーが心配げな顔でジャズに声をかける。
しかし、ジャズからの返答はない。




「呼んで参りました!」

連絡を受けたNESTの隊員がラチェットを連れて現れた。


「あ!ラチェット!早く早く!ジャズが大変なんだよ」

「心配しなくても大丈夫だ。悪いがバンブルビー、ジャズを私のラボに運ぶから手伝ってくれるか?」

「うん、もちろん!」

元気よく答えたバンブルビーが、隊員達にお礼を言いながらヨイショとジャズを傾け、ラチェットと一緒に担ぎ出した。






残された人間達が呟く。

「……あれだな」

「ああ、多分アレだ」

「こぇーな」

「ああ」

「相手がジャズともなると、ああいう手も使うんだなあの医者は」


隊員達はそれぞれの思いを胸に《ご愁傷様です》と呟きながら、ラボに運ばれる銀色の機体に手を合わせた。





【被害者ジャズ:完】

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