【シリーズもの】

□【それぞれの朝】
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【アイアンハイドの場合】




キュウーンという駆動音がひときわ高くなったかと思うと、続いてモーターの回転数が上がる。

(朝か・・・)
アイアンハイドは片目をうっすら開けると、背中を預けていた壁からその巨体をゆっくり引きはがした。

スリープモードになどしなければよかった・・・そう思いながら、この頃気温の下がり始めたフーバーダムの冷たい床のコンクリートにしっかりと立ち上がる。

秋から冬へ " 季節 " という移り変わりが地球にはあると教えてくれたのは相棒でもあるレノックスだった。

ジャズなどは新しい文化にめぐり合えば、先へ先へと学習しそれらすべてを楽しむ術を知っているが、常に戦えればよしとするアイアンハイドにとって、それは装甲のセンサーに多少の温度差を感じる程度の事柄でしかなかった。


昨夜は遅い時間にシフトがあった。
そういう日は、いつもだったら無理にスタンバイになどせず、動力を下げた状態で数時間休むだけでよかったのだが、昨日は仕方がなくスリープモードに切り替えた。

(こいつらのお陰で・・・)

そう思いながら、足元で抱きう合うように転がっているバンブルビーとジャズの寝姿に「ふんっ」ため息をついた。





昨夜、遅いシフト終えて基地へと帰還したアイアンハイドを出迎えたのはバンブルビーであった。

「おぉ珍しいな。今日はコッチか?」

いつもはサムの家に厄介になっているバンブルビーが、フーバーダムに来ているという事は定期メンテナンスか・・・そんな事を思いながら、アイアンハイドは久々に見る黄色いスラリとした機体に目を細めた。

「うん、ラチェットのメンテナンス。ずっと逃げてたんだけど司令官に怒られちゃってさ」

「そうか、じゃ今夜は泊まりだな」

「うん!ねぇーアイアンハイド、おいら聞きたい事があって待ってたんだけど、この後はもう空いてる?」

「おお、空いてるぞ。ちょっとオプティマスの所に顔を出してくるから待ってろ」


そう言うと、すれ違いざまにバンブルビーの肩にポンと手を置いた。


「早くねー!」そんな言葉に片手を上げて応えると、まっすぐオプティマスの部屋へ向かった。



報告は5分ほどで済み、バンブルビーの待つ倉庫へと足を向けると、レノックスが廊下の向こうから歩いてくる。


「おぉ、アイアンハイド!今帰りか?」
「ああ、そっちは?」

「俺は今からだ。そういや今日バンブルビーが来てるぞ」

「知っている。今から行くところだ」

「そうか、お前も大変だな」


ははは!と笑いながら、すれ違いざまに足の辺りを拳でガンと叩かれる。

(なんだ?)と、気になったが特に問いただす事もせず、そのままレノックスを見送った。

(何が大変なのだろうか?バンブルビーが?)

そんな事を考えながら、トランスフォーマーの居住区となっている場所まで行くと、ジャズが何やらバンブルビーと楽しげに話している。


「おぅ、お前も居たのか」


「ああ、アイアンハイド」これはジャズ。

「おかえりー!アイアンハイド!」これはバンブルビー。

「?・・・お前も俺に質問があるとか言うなよ」

多少笑いも含んで、そう言ったアイアンハイドにジャズがくるりと回転しながら立ち上がる。

「いや〜実はそうなんだ。」
「ぁ?」

期待に満ちたバンブルビーといい、先ほどのレノックスといい・・・俺のいない合間に何かあったのだろうか。
少し目を細めたアイアンハイドにバンブルビーが口を開いた。

「ねーねーアイアンハイド、司令官と○×▲(ピー)したって本当?」

「は?」

・・・想像だにしない言葉を投げかかられ、しばらくそれを理解するのに時間がかかった。

○×▲(ピー)って・・・・・おまえ、ナニ公共では放送できないコード使ってんだ?・・つか、俺とオプティマス?

「何を言って・・」そう言いかけると、ジャズがバンブルビーを後ろから小突いた。

「おいおいおい、何ストレートに聞いてんだ、それじゃダメだってさっき言ったろう?」

「え〜、だってじゃあ他にどう聞けばいいんだよジャズ」

「まぁ、いいからここは俺に任せろ」

ゴホンと咳をすると、今度はジャズが真面目な顔で聞いてきた。

「アイアンハイド、司令官と○×▲(ピー)したって本当・・・」「おいらと一緒じゃないか!!」

そう言って、ジャズの頭をポカポカ殴るバンブルビーを面白がりながら「わはは、わりぃーわりぃー」と言って逃げ回るジャズ。

なんとなく俺ってカヤの外?

フッとそんな事を思いながら、アイアンハイドはまだ先ほどの内容について考えていた。
そしていきなり理解した。

○×▲(ピー)・・
―俺とオプティマスが?!!

「おい!ジャズ、どういう事だ?ちゃんと説明しろ!」

倉庫内を、まだ走り回っている二人に向って大声で叫ぶ。

バンブルビーから逃げ回るジャズが走りながら答えた。

「いや〜俺もよく知らんのだが、ラチェットが昨日・・」

そう言って、バンブルビーと一緒にメンテナンスを受けた際にラチェットから聞いたという話をかいつまんで説明された。

話を聞き終えると、アイアンハイドは頭から煙が噴き出しそうになった。

(実際にオプティマスは出たらしいぞ!と、ジャズが面白そうに叫んでいる)

「馬鹿か!まったく!ラチェットめ、何を考えてそんな大ボラを!」

「なんだよアイアンハイド、いいじゃねーか、隠すなよ」

「アホか!俺とオプティマスはそんな仲じゃない!」

「そんな仲って、どんな仲の事を言うのー!?」

ジャズを追いかけながらも、バンブルビーが期待に満ちた目でしっかりとアイアンハイドを捉えてくる。

「うぅ〜〜〜まったく、あんのアホが・・」

そう言ってアイアンハイドは頭を抑えた。

「なぁなぁ、言えって!いつやったんだ?で、どうだった?」

ジャズがいきなり正面に回り込むとアイアンハイドを見上げてきた。

「あ!ずるいジャズ!おいらが先に聞いたんだよ!」

バンブルビーも慌ててアイアンハイドの正面に駆けてくる。

「ぅ・・・!」

2人に「なーなー!」「ねーねー」とせがまれて、アイアンハイドの顔が苦渋のそれに変わり始めた。

「うるさぃ!!俺はそんなことはせん!」
「なんだよケチだな、教えろって」
「ねーねー、どんな風にしたの?!」

自分より多少小さ目とはいえ、2体の機体にぐいぐいと体を押される格好で、アイアンハイドはどんど後ろへと追いやられていく。

どんなに「していない!」と叫んでも、2人はいっこう引き下がらない。

まったくラチェットめ、どんなすりこみしやがったんだ・・・呪いの言葉を吐きながら、アイアンハイドは天井を仰いだ。
仰ぎつつ、ふと何百年も昔のメモリーが蘇る。


―ああ、そうか・・あの時の事か。


アイアンハイドは「ふー」と鼻息を荒くすると、ニヤリと笑った瞬間、バンブルビーの両腕を掴みそのまま自分の方へと力まかせに引き寄せた。

急に腕を掴まれたバンブルビーが「わっ!」と叫びながらバランスを崩す。
そして、そのままアイアンハイドの胸に顔から突っこんだ。

そのままアイアンハイドに体を預けた格好で2体は一緒に後ろへと倒れ込んだ。

倉庫中に鈍い音が響き渡り、コンクリートの床からは白い煙が少々巻き上がる。
建物が一瞬揺らぐほどの振動。

バンブルビーが「イタタタ・・・」と呟きながら目を開けると、自分の下にはアイアンハイドの胸が見えた。

「ご、ごめん!アイアンハイド大丈夫?」

慌てて起き上がろうとするバンブルビーを、アイアンハイドが今度は腕を回して抱きしめた。

「ぇ?エ・・・???」
「どうだ、気持ちいいか?」
「え?・・・アイアンハイド?」

アイアンハイドに腕を巻きつけられて、オロオロするしかないバンブルビーには質問の意味が分からない。


「オプティマスに一度だけこうされた事があった。訓練中に俺がけつまずいてな、オプティマスの上で失神したんだ。
オプティマスはすぐに起き上がらず、失神した俺の目が覚めるまでしばらく倒れたままで俺の背中を何度も叩いて声をかけてくれたんだ」

バンブルビーが目を丸くしている。
ジャズは口をポカンと開けたまま突っ立ている。

「あ、それだけか?アイアンハイド」

やっと口が聞けるようになったジャズが2人を指さし確認してくる。

「ああ、これだけだ。俺はすぐに目が覚めたが、その時に駆け付けたラチェットが「気持ちよかったか?」と聞いてきたんで冗談で「まあな」と答えただけだ。あんのヤブ医者め」




「さあ、分かったら俺の上からどいてくれバンブルビー」

そう声をかけて、この話は終わりだと示したかった。しかし、バンブルビーは動かない。
真剣な顔つきで何やら考え込んでいる。


「バンブルビー?」
「気持ちいい!!」

「「 ああぁ?! 」」

アイアンハイドとジャズの素っ頓狂な声がはもった。

「アイアンハイド、おいらにもしばらくこうしててよ!」

「なっ?!・・・おまえ・・」

「なんかこれ安心するね、おいらも気持ち良くなってきた!」

ジャズがブッと吹き出しながら「いや、違うぞお前それ」と腹を抱えて笑っている。

「だあぁーーーっっ!もう付き合ってられるかっ!」

アイアンハイドはそう言うなり、バンブルビーが胸の上に乗っているにもかかわらず、おもいきり立ち上がった。

当然、その勢いでバンブルビーは「わっ!」と言いながら床へと転げ落ちるが一向に気にしない。

しかし、鼻息も荒くその場から立ち去ろうとするアイアンハイドにバンブルビーが絡みつく。

「いいじゃないかアイアンハイド、もう一回だけ!」

「やめんかっ!俺にはそんな趣味はない!」

そう言って、振りほどこうとするアイアンハイドにジャズが声をかけた。

「アイアンハイド、俺にも一回だけやってみてくんないか?」

「!!!はあっ?!アホかお前、何言ってんだ?」

ジャズまでが、ちょっとやってみたいオーラを出してこちらに向かってくる。

「減るもんじゃないだろうがー」
「断る!」
「ねーねーアイアンハイドぉー!」
「やめんかっ!」
「いいじゃねーか、一回だけ!」




「だぁーっ!俺はもう寝るっ!!」




そう言って、無理やりスリープモードにしたのが、地球時間でいう1時間半ほど前であった。

夜明け前とはいえ、既に空は白みかけ明るい色を醸し出している。

アイアンハイドはハァー・・・とため息をもらすと、もう一度床で抱き合うように転がっているジャズとバンブルビーを見やった。

やれやれ。
ラチェットのせいでエライ目にあった。
しかし、昨夜バンブルビーを胸に乗せた時に少しだけ感じた、あの安堵感のようなものはいったい何だったのだろうか?

アイアンハイドは「イヤイヤイヤイヤ・・・」と呟くと、扉の方へ歩きながら、まずは一言文句を言ってやらねば気が済まぬとばかりに、夜明けも間もない倉庫内からラチェットへの個人回線を開いたのだった。




後日談:
夜明け前に大音量で響いた仲間の声に逆切れしたラチェットが、翌日の定期メンテナンス時にアイアンハイドの声帯回路をぶっち切るという報復に出た。

バンブルビーはそれ以後「○×▲(ピー)」とは【抱擁】であると理解。
家に帰ってからサムがその被害に遭い、失神の憂き目に合う。



《アイアンハイド・完》
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