【シーズンSS】

□元旦SS
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【新年の抱負】
(日本式バージョン))

珍しくオプティマスが、新年の決意を表明しようと言いだした。

そもそもアメリカには『正月行事』というものが無い。
クリスマスのように家族や大切な人と集まる習慣もない。

アメリカで慣習となっている新年のイベントと言えば、TVで " Ball Dropping " を観ながら、盛大な花火に歓声を上げキスをするぐらいだ。

しかし「ハロウィン」「クリスマス」とイベントが続き、地球の文化を大いに楽しんだらしいジャズにしてみれば、それはちょっとどころか、かなり物足りないものであり、せっかく新年になるのだから……と検索した結果、新年の行事を大切にする日本の検索結果がNO,1にHITした。

門松・注連飾り・鏡餅。お年玉、年賀状、おせち料理にお雑煮。
初夢・初売り・書き初め・初詣・破魔矢・羽根突き・凧・独楽・双六・福笑い・かるた・百人一首…
七草粥、鏡開き、どんと焼き。

出てくる単語全てが珍しく、何やら非現実的な香りまでしてくる。
レノックスにその事を話したら「アメリカではやらんな」と笑われたが、オプティマスに話したところ一つの単語に食いついた。

「年を新たにした際、気を引き締める意味でもその星のサイクルに合わせた年の目標や夢を語り合うのは素晴らしいな」と。


―― で、現在。

既に新年のムードなど欠片もない軍事基地の格納庫内に、オートボットとレノックスやエップスらが(この辺はどうやら冷やかしらしいが)集まった。

「“ 抱負 ”……か」

オプティマスが厚い胸のアーマーの前で両腕を組んだ。
時々回転するパーツや、ベアリング音が静かにうなり、シーンと静まり返った格納庫内に少しばかりの緊張を生んでいる。

「目標でなく" 夢 "でもいいんだぜ。オプティマス!」

ジャズが壁に積み上げられた巨大なタイヤの上に座ったまま叫んだ。

「夢か……いや夢であるよりは達成すべき目的を心構えとして言うべきだろう……、わたしは故郷の再建を望む!」

おぉー!というエップス達の声と同時に、数人の軍人から小さな拍手が起こった。

「よし、次は副官であるジャズ。お前だ」

オプティマスからいきなり指名されたジャズは、タイヤに両手をつくと十数メートルはあろうかという高さからヒラリとジャンプし、コンクリートの床に軽やかに着地した。

「オレはこの星全ての大陸を探査する。まだまだ知らない文化に満ち溢れているからなここは」

ほほぉ〜というどよめきと共に“ うんうん ”と頷くバンブルビー。

「次はアイアンハイドだな」とジャズが振り向く。

オプティマスの横に立ち、地球のイベントなど興味無いと言わんばかりのアイアンハイドが「フンッ」と排気を洩らした。

「ディセプティコンを壊滅する。それだけだ」

レノックスがその足元で、アイアンハイドの鋼鉄に軽くパンチした。
アイアンハイドがそれに向けて視線でニヤリと応えている。

「“ 次は私の番だな ”」

バンブルビーがラジオ音声を使い、軽く首を傾ける仕草をした。

「“ 与えられた任務を! ”“ より完璧に…… ”“ 誰よりも早く! ”」

オプティマスが「うむ」と力強く頷いた。

キューンという機械音を出しながら、少し照れ臭そうに目をクルクルするバンブルビーをスキッズ達が両側からバンバンと小突いている。

その時、全員の後方に居たサイドスワイプが、両足のタイヤを滑らせて颯爽と登場した。
そして周囲をぐるりと見回すとこう言い放った。

「俺は誰よりもここで最速を目指す。そして全ての戦闘に勝つ」

そう言ってタイヤを鳴らしながら回転するとブレードを光らせた。

だが、全員の歓声よりも先に聞こえたのは、まるでモノ申すかのような発言……赤いトランスフォーマーの言葉だった。

「No! Ti sbagli. 悪いがお前のその抱負とやらは達成しないな……、ここでの最速は俺だ」

そう言ったディーノが腕を組みながらサイドスワイプの横に立ち1歩前に出る。
サイドスワイプも負けじとさらに大きく一歩前に出た。

「ここでは俺の方が戦闘に慣れている。お前は俺の後ろでも走っていればいい」

「なんだと……?」
「やる気かっ!」

「いい加減にしろっ!」

アイアンハイドが左腕の大型キャノンを赤と銀の機体に向けた。
すかさず2人は「うっ」と苦い表情になる。
相手がたとえ誰であろうと、アイアンハイドは撃つと決めたら撃ってくる、必ずだ。

「ではディーノ、お前の抱負はなんだ?」

オプティマスが何事も無かったかのように先を進めると、周囲の人間達からホッとした空気が流れた。
新年早々、オートボットの流れ弾に当たって殉職するのはごめんだ。

まだスパークの収まらぬディーノが顎を引き、ジロリと横のサイドスワイプに目をやるとオプティマスに向き直りぶっきらぼうに答えた。

「特にない。ここでの任務を遂行し、できる事をするだけだ」

後ろの方でマッドフラップ達が「なんでぇー」だの「つまんねーの」とブツブツ呟いているが、ディーノはそれ以上何も言わなかった。

「次はお前たちだ、マッドフラップ、スキッズ」

アイアンハイドが少しイラつきながらも先を促す。

「あー新年っつったって、地球時間でだろ?」
「なんか締まんねーよなぁー」

好き勝手な事を言い合う2体の頭を、バンブルビーが拳でゴンゴンと連続で打った。すぐに抗議の声が飛んでくる。

「いてーなー!おいっバンブルビー何すんだよ?」
「おれ達が何をした?え?」

「“ さっさと言いなさい ”“ ガキかお前らは! ”」

バンブルビーが男女の声を連発して諌めると、スキッズ達がニヤニヤしながらふざけたような声を出す。

「よくその場に合うような言葉をポイポイ拾えるもんだよ」
「本当だよ、感心しちまうぜ」

次の瞬間、バンブルビーのバトルマスクがガシャンと下がった。慌てた双子が両手をブンブンと振りながら後ろへ下がってゆく。

「分かった分かった!言えばいいんだろう?えーと、相棒どうする?」
「ん〜、そうだな。じゃオレはもっとカッコいい車をスキャンして武器を増やす!」

「へ〜そんな事考えてたのかよ。じゃ、俺もそれ♪んでもって、ディセプティコン共を一掃してやるぜ!」

「「イェ〜ィ!」」

ガチンと空中で手を合わせた後、お互いに相手の腹を小突き合う2体はご機嫌である。
ジャズが「お気楽だな、お子ちゃまは」と、両手を上げて呟けば「聞こえてたぞ!」とすごい剣幕でジャズに向かって行く。

要は遊びたいのだ。
オプティマスをはじめとする古参の戦士達がいっせいにため息をついた。


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