【キャラクター別】

□Sideswipe
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晴れ渡った空に一筋の雲が流れている。

サイドスワイプは初めて地球に降り立った時、この空を仰ぎ見てどこか懐かしいと、おかしな気持ちになった事をふと思い出した。

望郷ではない。
しかし、懐かしい仲間や師との再会があり、それらが彼から緊張という名の枷を若干解いたのも又事実であった。

その思いが一瞬スパークを駆け抜け、多少の後悔と嬉しさが入り混じったようなあの日……どこまでも広がるこの空を見て「この星も悪くないな」と確かに思ったものだ。

永遠とも感じる戦争は、まだ終わりが見えない。
故郷と一緒に、多くの同志を失った。―そして、今も続く果てぬ惑星間の探査、戦闘。
そのさ中に、司令官であったオプティマス・プライムからのメッセージを傍受した。



―嬉しかったのだ。きっと。




【Lingering Sound】



「今日はこれまでにしておこう、これ以上やるとうるさい軍医がいるからな」

多少本気も混じった嫌味を口端に乗せ、それを少しの笑いで放ったアイアンハイドが、地面の上でまだ仰向けに倒れているサイドスワイプに片手を差し伸べた。

その手に助けられながら、やっと起き上がったサイドスワイプの足首に小さく火花が弾けた―そのとたん、思わずバランスを崩して片膝をつく。
どうも上手く立つことができない。


「大丈夫か?」

「ああ何とか…クソッ、あれしきの事で」

よろけながらも悪態をつきながら立ちあがり、何とかバランスを保とうとしているサイドスワイプが恥じるように答えた。

師でもあるアイアンハイドの実践訓練は、今も昔も変わらず厳しい。

だが、元々戦闘に対しての意欲は他の誰にも引けをとらないサイドスワイプにとって、その厳しさは有難くも望むべくスタイルであり、彼の訓練をこうして直接受けることができる今を常に感謝していた。

一方アイアンハイドにとってもそれは同じことで、時に持て余す力への律動をレベル的にも対等に近い形で相手になってくれる者が居る事は有難く、サイドスワイプとの実践訓練は彼なりに満足のいくものであった。

もちろん訓練ともなれば、相手がたとえ司令官だろうがバンブルビーだろうが、一切手を抜くことは無いアイアンハイドである。
訓練終了後は常に破損や故障が付き物で、それは毎回ラチェットの頭痛の種でもあった。


「又、先生に嫌味を言われちまうかな…」

サイドスワイプが渋い声でそう言うと、アイアンハイドの表情が少し曇った。

「そんなに酷いのか、見せてみろ」

「いや大丈夫…で……っ!!」

言いかけて後ろへ少し下がろうとした瞬間だった、足首のパーツから盛大な火花が上がる。
ついでにアクチュエイターからもおかしな音がして…その直後、サイドスワイプはおもいきり後方へと転倒した。

辺りに土煙が巻き起こり、振動が響き渡る…さしずめ震度2といったところであろうか。
サスペンションが効いているとはいえ、さすがのサイドスワイプもすぐには起き上がれない。


地面に大の字になり、ふと気が付けば、サイドスワイプは又あの青空を仰ぎ見ていた。

自分のカメラアイよりも青く、青く……まるで吸い込まれそうなその広さに、一瞬スパークが溶けかけてゆく。
―そんな感じだった。


「おい!大丈夫か!」


アイアンハイドが大声を上げて駆け寄ると、サイドスワイプの視線と空の合間に入ってきた。
青い空を跨ぎ、顔を覗かせ、心配そうな表情で見つめてくる黒い鋼鉄の中心には自分と同じ青いカメラアイが発光している。

何を思ったのか、サイドスワイプはふっと顔が笑ってしまった。
転倒した自分に呆れ果てて可笑しかったというのが、だいたいのところだったが、それだけではなかった。

高く青い空と、師に包まれているようなこの状況が、今の自分に全く似つかわしくないのに "幸せ" で……少し泣きたいような気持ちになったのだ。


『俺はここに来れてよかった……』


そんな事を恥ずかしげもなく思ってしまう…サイドスワイプ自身がその事に驚き、唖然とし、そしてその陳腐な感傷につい笑いがこみ上げてしまったのだ。


「まったく人が心配してやってるってのに何を笑ってる」

もっと呆れた口調で両手を腰にやったアイアンハイドがくるりと反転した。

「もう知らんからな、自分で起きて勝手にラチェットの所へ行け」

「え?あ!…ちょっ、待てよ!アイアンハイド!そりゃないでしょう!」

慌てたサイドスワイプが肘を突いて上半身だけ起こすが、視線の先では既にトップキックへとトランスフォームしたアイアンハイドがエンジンを響かせている。


「アイアンハイドの事を笑ったんじゃないって!誤解ですよ!ちょっ、起こしていってくださいって!」

半分本気で泣きの入ったサイドスワイプに、アイアンハイドが無愛想に答えた。

「見たところ内部のスタビライザーがやられているだけだ。それぐらい自分で何とかしろ、戦場じゃ当たり前だろうが?」

そう言って、本当に走り去って行ってしまった。




「マジかよ……」

アイアンハイドの後姿を目で追いながら、サイドスワイプはあきらめて又地面に倒れると急に笑いが込み上げてきた。そして、大らかに声を上げて笑った。

戦闘訓練も、青空も…アイアンハイドとのこうした変わらないやり取りも全てが楽しかった。


「まったく、―マジで置いてくか?普通」


そう呟きながらも笑いが止まらない。
この気持ちは何なのだろうか?この地球へ来てからというものまったく俺はどうしちまったんだ?

ディセプティコンと対峙する事があれば、それはもちろん常に命の掛け合いである。
だが、違うのはその前後だ……不思議とここの空間は違う。
混沌としているようで、それが常に不思議な安心感を醸し出す。

「平和ボケしてるつもりはないんだがな……」

先ほどの一筋の雲が崩れはじめ、ところどころ点々とした形になったまばらな雲を目で追っていたら体内から呼び出しがあった。
アイアンハイドはあり得ないな…と思っていたら案の定違っていた。……ラチェットだ。

アイアンハイドから連絡を受けたので、今こちらへ向かっているとの事だった。

短く礼を言うと「礼ならアイアンハイドに言え」と回線の向こうでラチェットが笑っている。

サイドスワイプのブレインサーキットがわずかに振動した。

その後「まったくお前らときたら」とか「この忙しいのに駆り出される私の身にもなれ」などと続いたが、そんなラチェットの声は、もうサイドスワイプには聞こえていなかった。

そこを動くなよ、という言葉を最後に回線が切れる。





「くそぉーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」


周りに誰も居ないのをいい事に大声で叫んだ。
照れ臭さと、先ほどの変な気持ちが体中に充満したかのようなくすぐったさ。―それが不快でもあり、心地よかった。

足の故障はラチェットが来ればすぐにも解決するだろう。そうしたらすぐアイアンハイドの元へ行こう。
きっと又怒られるだろうが、かまうものか。


…そんな事を思いながら、サイドスワイプは少しの間だけカメラアイを閉じる。


目を閉じてもなお眼前に広がる青い空間が、先ほどのおかしな気持ちも一緒に包み込んでいくのを体中で感じながら、もう一度強く思った。


―ここに来れて良かったのだ。と。




fin.


(2011 11 23)
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