【シリーズもの】

□【不在の日シリーズ】
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◆オプティマス不在の日



ディエゴガルシアに来てからどれぐらいの時間を過ごしただろう?
時に敵を一掃すべく戦闘状態になる時もあれば、時に惑星探査で数カ月地球を離れたりとオートボット軍の時の流れは速い。


どこまでも青く澄み切った濃い青空を仰ぎ、ジャズは受容層を張り巡らしたその両手を空に向かって伸ばすと、センサーネットで大気の分析をしながら島独特の変わった気候を心から楽しんでいた。
そうして、まるで人間がよくするようにおもいきり伸びをする。

なんて気持ちの良い日だろうか。
眩しい太陽をバイザー越しに見ながら自然と体内に収めた音楽を小さく鳴らし、自分もそのリズムを口ずさんだ。


♪We were born,born to be wild
 We can climb so hight
 I never wanna die
 Born to be wild
 Born to be wild


地球でいうところの60年代の古いロック。
この空と少しも合わない気がしながらも、歌詞が気に入りメモリーに入れておいた曲だ。

ここ数日は、長期に渡り探査してきた惑星のデータ解析とエネルギー計算に追われておちおち休む暇もなかった。

4日間ぶっ通しでデスクに向かい、昨日オプティマスが急きょ軍に召集をかけられ、やっとのことで少しばかりの自由時間を得たのだ。


「まったく、オプティマスには参るぜ」

部下を気遣いながらも、その仕事量を減らす気などはさらさらないようで、どの項目についても終わりの見えない膨大な量の解析はジャズの精神回路を少々疲れへと誘っていた。
しかし……。


「すまない、ジャズ。しかしお前に頼むのが一番早く正確なのだ」


そう言われたらジャズとて悪い気はしない。

人間の所有する最先端のテクノロジーを数千要したとしても、多分、地球時間で100年以上はかかるであろうデータ量である。
だが、ナノ・クリックの尋常でない情報処理能力を有し、またその未加工データをジャズならではのセンスと知識で整理された情報へと置き換える事のできる長けた能力は、誰もが認めるジャズの才能であった。

ジャズは顕著に自負しながらも喜んで作業に従事した。

そして、デスクにこもること4日目。
さすがのジャズにも少し疲れが見えはじめた頃に、たまたまオプティマスが本土へと招集されたのだ。

もちろん、温厚な司令官のことである。
たとえ目の前でジャズが休もうとも何も言わないであろうことは分かっていたし、実際オプティマスは何度も「少し休め」と声をかけてきた。
しかし、そこは副官としてのプライドがある。

ジャズはオプティマスがいる間は、黙々と仕事をこなしていた。
それが、信頼と尊敬に値する総司令官オプティマス・プライムへの気持ちの表れでもあったからだ。




そして……先ほど、急にその意識がプッツリと切れた。




うーん!と、もう一度伸びをすると、ジャズはトランスフォーマーの格納庫前でゴロンと滑走路のど真ん中に寝そべった。
青い空にぽっかりと一つだけ白い雲が浮かんでいる。
ジャズはぼんやりとその雲を目で追いながら、体内システムを少しだけダウンしようかと回路を抑えかけた……その時。

ふいに青い空が黄色い装甲に遮られ、嬉しそうな声に名前を呼ばれた。

「ジャーズ。何してんの?」

くるりとした愛らしい青い瞳がジャズのバイザーを嬉しそうに見つめている。



「おお、バンブルビーか……ちょっと休憩だ」

「へ〜、おいらも一緒に休憩していい?」

「あ?……お前も休憩って、何か作業でも押し付けられてたのか?」

笑いながら、そう聞くジャズの横でヨイショっと腰を下ろしたバンブルビーが両足を伸ばして空を仰いだ。


「うーん、ジャズほど大変な事はしてないけどね。司令官が帰るまでにって、ジャズが整理した情報を時間経過順に並べてただけ」

「そうか……そういやぁ俺は順番なんて関係なくやりやすい個所から手付けてたからな」

「いいんだよ別に。司令官もジャズの仕事を妨げないようにっておいらに言ってたし、きっとジャズのそのやり方が一番早いってわかってるんだ」 

「さすが、オプティマス……ってところか」

「うん!さすがだよね!」

「そういやよ、この前なんてな、オプティマスが……」


なんて事はない会話。
しかし、誰もがオプティマス・プライムに絶対の信頼を寄せ、敬愛しているのだ。そんなオートボット達のたわいもないおしゃべりは海風とともに高い湿気と気温に交じって空へと上ってゆく。




ディエゴガルシアは、珍しく平和だった。









「はぁっ‥くしょんっ!」

大きなくしゃみが会議室中に響き渡る。
素晴らしく長い楕円形のデスクに一同に揃ったアメリカ軍・NEST軍の上官全員がその声にギョッとした。

機械もくしゃみするのか?!……まさにそんな視線がいっせいにオプティマスへと集中する。


「……失礼した。続けてくれたまえ」


まるで何事もなかったかのように、オプティマスが落ち着いた声を響かせる。


――誰か、私の噂でもしているのであろうか‥

心の中でひとりごち、オプティマスは遠く海を越えたディエゴガルシアに残る部下達を思うと、早く帰還したいものだと口元に優しい笑みを浮かべた。




Fin.






【Steppenwolf/Born To Be Wild】より抜粋♪

We were born,born to be wild
We can climb so hight
I never wanna die
Born to be wild
Born to be wild

《訳》

生まれながらにワイルドな俺達、どんな高みにも登れる
俺は死にたくない、本能のままにワイルドに生きるんだ

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