【シリーズもの】
□【良薬は口に・・】
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【良薬口に甘辛し…】
「これを飲めばいいのか?ラチェット」
「ああ、取り急ぎ作ったとはいえ効果は絶大だ。試してみてくれオプティマス」
NEST本部基地内にあるラチェットのラボで、オプティマスは不安げな目を手の中にある小さな小瓶に向けていた。
エネルゴンに似た色合いを醸し出すその液体は、どう見ても怪しげで、白い煙を小瓶の淵からふわふわと溢れさせている。
ただでさえラチェットの作った薬ということで不気味さが後を絶たない。
「どうした?オプティマス、何か問題でも?」
「……いや、本当に飲んでも害はないのか?」
あからさまに疑いの目を向けられた軍医は、目を細めると無言の迫力で押し返してきた。
「ぅ……わかった。飲もう」
最近の戦闘であまりにリペアの回数が増え、これでは手が足りないとばかりにラチェットが考案したのは「自己修復回路増幅増強剤」
まぁ、人間でいえば「ユン○ル」とか「まむしド○ンク」といった類の何倍も強烈なやつである。
試薬ができたところで「ここはまず司令官から……」と言われ、今日まで何かと仕事を理由に伸ばし伸ばしにてきたのだ。
しかし、オプティマス自身が昨夜遅くにディセプティコンとの小競り合いで視覚モジュールを損傷してしまった。
自動修復を待つつもりで、損傷したことを隠しながら基地へと帰還したところを、アイアンハイドから連絡を受けたというラチェットが待ち構えていたのだ。
――大丈夫だ。
――そのままではマズイでしょう。
――これぐらいの損傷でラチェットの手を煩わすのも悪い。
――いいえいつ戦闘になるかわかりません。
そんな押し問答を部下やレノックス達の前で繰り広げ、とうとうラボへと引きずられる羽目になってしまった。
「あなたが飲んで効果が出れば、他の者たちにも安心して投与できるのです」
「……ちょっと待てラチェット。効果が「出れば」?出ない事もあると?」
「いやいや、言葉のあやですよ司令官。とにかくグッと」
ふざけんなよ、わたしが毒見かよとも言えず、オプティマスはさらに煙の量が増えた気がする小瓶を睨みつけた。
「あ……言ってなかったが、早く飲まないとその液体爆発しますよ」
「!!!!!」
それを聞いたオプティマスは慌てて、つい一気に飲み込んでしまった。
ハッと気が付いた時には液体はきれいに小瓶から消えており、オプティマスの体内へと吸収されていく。
とたんに足元から熱が上がってきた。
気のせいか装甲も赤みを帯び、熱は膝、腰、胸元とどんどん上がって来る。
その時だった、動悸にも似た激しい震動がオプティマスを襲う。
足元がおぼつかなくなり、すぐ傍にあったデスクに片手をつくとそのまま片膝をついた。
「……ラ・・チェ……ッ!」
息苦しさも手伝って声が出にくい。
おい……自動修復でなく、自動故障増幅剤じゃないのか!?……という思いが強くなった時だった。
目の前がブラックアウトし、オプティマスはそのままデスクの横に大きな音を立てて倒れ込んだ。
ものすごい音と振動が基地内に響き渡る。
既に居住区でくつろいでいたアイアンハイドをはじめとする他のトランスフォーマー達が視線を合わせた。
“ やっぱり ”と。
ラチェットのラボでは、シーンとなった部屋の中央で、これまた部屋の主がうーん……と首をかしげて腕を組んでいた。
「何がいけなかったのか……やはり、もう少し改良が必要という事か」
ヨイショっと、自分よりもはるかに大きなオプティマスの体を診察台になんとか持ち上げると、あらためてその体にスキャンをかけ丁寧に調べあげ記録を取っていく。
すると意外な事に、視覚モジュールの損傷はきれいに修復されていた。
「なんだ……案外効いてるじゃないか」
思わずちょと浮かれたような声が出た。
そのとたん、ガシッと腕を掴まれる。
診察台の上に目を向けると、オプティマスがうっすらと目を開けてこちらを睨んでいた。
「ぁ……気が付きましたか?オプティマス」
「ラ……チェッ………おまぇ…」
「ちょっと薬の効き目が強すぎたようですな。次からは損傷部分に合わせた分量……」
そう、言いかけた時だった。
掴まれた腕をおもいきり引き寄せられ、その勢いで診察台の上に起きあがったオプティマスが空けた場所に横倒しにされる。
後はもう乱闘さながらであった。
お前が飲んでみろ!!!
いや、わたしはもう試したから!
人の体を何だと思ってる!
ですから大事な体だと……!ギャアァー!!
ドタンバタンという騒音の後に響いたのはラチェットの悲鳴であった。
さほど遠くない居住区に居たアイアンハイド達が、さらにギクッとした顔でお互いを見合う。
しばらくすると、いつもの凛々しい顔をしたオプティマスが、憤然とラボを後にする姿が目撃されたが、その後、数日にわたりラチェットの姿を目にした者はいなかったという。
《被害者オプティマス:完》
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