【シリーズもの】

□【それぞれの朝】
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【オプティマスの場合】






「朝か……」

オプティマスはフーバダムにしつらえた簡易執務室の窓から差し込む白い光に目を細めた。
眼は完全に座っている。
眠れなかったから……、という理由からではない。
彼は今確固たる信念の元、ラチェットのラボに向かおうとしていた。


―― 昨夜、ラチェットが提示した新しい報告書に目を通し、一旦休息をと機能をインターバルへダウンしかけた時だった。

書類の合間に見慣れないディスクが挟まっている。

指先でつまみ上げてみれば、ご丁寧に【見たら死にます】という文字。


……これは、いただけない。


わたしはオートボット総司令官オプティマス・プライム。
そのわたしに【見たら死にます】?


「やってもらおうじゃないか……」


フッと口端に笑みがこぼれ、青い目に小さな炎が浮かんだ。

ディスクをセットし、なんの躊躇もなくエンターキーを押す。



ん……?




一瞬ブラックアウトしたかと思った画面は、砂嵐が2〜3秒続いた後にいきなり真っ白になった。


カラだったのか?・……そう思いディスクを取り出そうかとコンソールに再び手が伸びた時だった。

ザザッと、画面がぶれた瞬間に見覚えのある部屋が映し出され、画面から聞き慣れた部下達の楽しそうな会話が聞こえてくる。



「そっかー!ってことは、司令官はかなりすごい!てことだね!」

ワクワクしたようなバンブルビーの声に答えているのは……どうやらジャズのようだ。

「んーそうだなあー、まぁ俺が知る限りじゃ百戦錬磨?ってやつだな」

画面が斜めにぶれてはいるが、見慣れたラチェットのラボの診察台に銀色のボディーと黄色の明るいカラーが見える。


ふふん、と得意そうに顔を上げたジャズに興味深々な声でバンブルビーがせっついている。
いったい何を話しているのだろう?と、オプティマスは少し興味を持ち画面に集中し出した。


「それで!それで!その後どうなったの?!」

「あぁ、司令官がちょいっと手を動かせば相手はもう終わったようなもんさ」

「へ〜すごいな!」

「まっ、俺だって捨てたもんじゃないけどな」


なんの話題であろうか……?
多分、定期メンテナンスで暇を持て余してのたわいもないおしゃべり……どうやらその話の中心が自分であるらしい事が内容から見てとれる。
過去幾多において行われてきた戦闘の話か、または訓練中の話であろうか?

にしてもどうやら、自分を称賛しているような内容である。
オプティマスは知らず頬を赤く染め、部下達のくったくない会話に目を細めた。


それにしても、ラチェットのやつ……こんなところまで盗撮し、わざわざディスクに保存するなど少し注意しておく必要がありそうだな。


そんなことを思いながら、今度こそディスクを取り出そうと指がタッチパネルに触れた瞬間だった。


「でも、司令官がメガトロンとそんなに仲がいいなんて知らなかったよ!」

「だろー?俺もさ。この前ラチェットに聞いて驚いたぐらいだからな」


(―― あ? わたしがメガトロンと……なんだって?仲がいい?)



一瞬耳を疑い、その個所をもう一度聞き直そうとした時だった。



「メガトロンと《キモチノイイコト》するってどんな気分かなー?」



ビシッ!と脳回路からおかしな音がはじけた。
伸ばした指が凍りついたかのように動かない。
先ほどまで微笑んでいた口元が、おかしな方向に引きつった。


(わたしが・……誰と何をしたって?)

(キモチイイコトってまさか……、は?)


ブレインサーキットがすごい早さで回転している。
次に画面の中に現れたのはラチェットであった。



「もう、その話はよさないかジャズ。バンブルビーの精神回路によくない」

「なんだよ、ラチェットが教えてくれたんだろ?」

「おいら、もっとよく知りたいよ!」

「だよな〜知りたい年頃だよな〜バンブルビー」

「だったら話を続けたまえ、そのかわりオプティマスへの通信回路を開けたままにしておこう」

「おいおい、それはマズイだろっ!わかったよ……この辺でやめとくって」

「え〜〜!もうお終い?」


(何を話していたか知らんが、なんでもいいから終っとけっ!)


「あぁ、お終いだ。いい子だから後は想像だけにしとくんだな」


(ちょっと待てジャズ!想像はマズイだろう!想像は!)



「しかし、あのメガトロン相手に司令官もやるもんだよな……、ちなみに他にはどんなトランスフォーマーを相手にしてるんだ?それぐらい教えてくれてもいいだろう?ラチェット」



(いやあぁーいやいやいやいや!ちょっと待て!)



「ふむ……わたしが聞いたところによると、一度アイアンハイドとも何かあったとか……」


(いつ!誰に聞いた!)


「マヂかよー?!」

「アイアンハイドとも?!」



(アイアンハイドと何があったんだ、何が!わたしが聞きたいっ!)




「まぁ、司令官という責務を担っているお方だ……我々には想像できないようなストレスもあるのだろう」

「はぁ〜あのオッサンとね……俺だったら絶対に遠慮するな。カワイコちゃんの方がいいぜ」

「おいらも!優しい子がいいな〜」



(誰が好き好んで!わたしだって女性の方がいいに決まっている!)




「わたし達トランスフォーマーには生殖機能が備わっていないのだから、相手を女性に限定することはない。よかったらジャズも司令官とどうかね?」




(ラァァァチェェェェーーーーットッッ!!)




「い……いや遠慮しとくよ。俺にはとても耐え切れそうにないんでね」

「おいら、ジャズと司令官が気持ちいいことするところ将来の参考にちょっと見てみたいなー」



(普通見たくないだろうっ!そんなモンッ!)



「お子様には100万年早い!ってな」



(1000万年たとうが見せられるか!)



「こんな会話、司令官が聞いていたら大変だな」




その後は全員の笑い声が部屋中に響き、画面はまた始まった時と同じように真っ白になると、ブラックアウトし今度こそ何も映さなくなった。




・………。





ブチっ!






何かが切れた。

しゅううぅぅぅーという音とともに、頭から白い煙が立ち上る。

「ブレインサーキットに異常が感じられるな……」

仕方がない……我が軍の優秀な医師にでも診てもらうとするか。



そう頭の中で呟いたオプティマスは、背中からキャノン砲を取り出すと、砲弾がこめられている事を確認し夜明けの執務室を後にした。











後日談:

ラチェットのラボは、既に身を隠したのか軍医の姿はどこにもなく。
その後、フーバーダム内にジャズの部屋付近から轟音と悲鳴が響き渡ったという。



《オプティマス・完》
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