【シリーズもの】

□【初めてシリーズ】
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―遭遇―
(ラチェットの場合)



青い空がどこまでも広がるディエゴガルシア島・NEST本部基地内・トランスフォーマー専用居住区。

その中で多分一番広いスペースであろうラチェットのメディカルルームを、他の者達はラボラトリー(LABORATORY)――通称「ラボ」と呼んでいた。

ラチェットは、任務があっても無くても1日のほとんどをこのラボで過ごす事が多かった。
オートボット軍、唯一の軍医としてやる事は日々山積みである。

仲間のリペアやメンテナンスチェックは元より、地球人との接触による新たなデータ作成や、アメリカ軍からの資料提出要請、ウィルスのチェック、有害とされる物質に関する処置に至るまでその全てを任され、その作業量はもしかすれば、司令官であるオプティマスをもはるかに凌駕していたかもしれない。

そんな事で、この日もラチェットはラボを出たり入ったりしながらデータ整理に追われ、できれば邪魔をされたくないという雰囲気を周囲に張り巡らして作業に従事していた。

そして、そろそろキリのいいところで別の作業に入りたいものだ…などと考えながら、壁際に作られた簡易棚の前に立ち、置かれている大量のデータディスクを1つ1つ丁寧に検索しながら体内回路にインプットすべき項目を抜き出していた――その時。


どこからか「にゃぁ」という、明らかにTFとも人とも違う声が室内に響く。

「……?」

ラチェットが顔を上げ、いったいどこから聞こえたのだろうかと辺りを見回す。が、特に動くものは何もなく……しかし、しばらくすると又同じ声が聞こえてきた。


よくよく聴覚センサーを働かせてみれば、どうやら声はラチェットのデスク裏辺りから聞こえてくるようだ。
いったい何の声であろうか?と、ラチェットはデスクまで行くと広げてあった資料を除け、手をついて上から覗き込んだ。


――居た。

デスクと壁の狭い隙間に、なんだかふわふわした小さな黄色い縞模様の塊がじっとしている。

カメラアイの明度上げてズームをかけると、ラチェットはその姿をネットに転送し検索をかけた。

『……“ネコ”?』

なんでこんな所にネコが……という思考には至らなかった。とにかく不可思議な生き物だという考えが先に来て、ラチェットはそちらに興味が湧いた。
そうして、しばらくその黄色い毛の塊をじっと観察してみる。

動けないわけではなさそうだった。
しかし、こんな場所でいったい何をしているのだろうか?だいたい、いつの間にこの部屋に入ったのか……そんな事を考えていると、ふいにネコがラチェットの方に顔を向けた。

くりっと大きく見開いた愛らしい瞳とラチェットの青い目が合う。

次の瞬間、ネコは目を細めて笑ったような顔になるとラチェットに向かって「にゃぁ〜」と、可愛らしい甘えた声を出した。


ラチェットのブレインサーキットに電撃が走った。


「なんだ?今のは……」


あり得ない事象だとラチェットは首を振った。しかし……


フワフワとした柔らかそうな毛。
黄色と白の優しい色合いで全身を覆われた小さな体。
潤んだ大きな瞳。


ラチェットはフーッと排気を吐くと、周囲をぐるりと見渡し誰もいない事を確かめる。
そして、そーっとデスクと壁の間に腕を伸ばした。
ネコの方もラチェットの指の動きに吸い込まれるように鼻先をちょっと上げると、まったく怖がりもせず伸ばしてきた鋼鉄の指先に触れようと首を伸ばす。

あと、もう少し……と、ラチェットがデスクの上にさらに身を乗り出した時だった。



「ここに居たのか!ラチェット、悪いが今すぐ左腕の関節部分を診てくれ!」



いきなりラボの入り口に現れたアイアンハイドが、機械音を響かせながらラチェットに向かって歩いてくる。

「今、サイドスワイプとの訓練中にだな……ん?何やってるんだお前?」

デスクと壁の間に片手を伸ばしたまま、その上に半身を乗り上げてこちらに尻を向けた恰好で動かないラチェットをアイアンハイドが怪訝な表情で見つめている。

その時、アイアンハイドの足元を、何か小さなものがすごいスピードで走り抜けラボの入り口から通路へと消えていった。

「おわっ!なんだ今のは……。おいラチェット!聞いてるのか?関節部分がだな」「腕がどうしたって?!ぁあ?!」


「―― へ?」



振り向いたラチェットの形相に、アイアンハイドが固まった。

思わず『いや、やっぱりなんでもないです』とばかりに後退するも、時すでに遅く……。



その後、ラチェットのラボからこれ以上ないというほどの悲痛な叫び声が響いた事は言うまでもない。



……Fin.


このSSに素敵な贈り物を頂きました。
初めて観た時も今も、あまりの美しさにため息が出ます。
ラチェットと子猫…このSSにはもったいないほどの素晴らしいイラストです。
ミネルヴァ様、本当にありがとうございました!心から感謝いたします。




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