第一章
□始まりはいつも唐突に
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更衣室で学校指定のジャージに着替えたミナトは、クゥと一緒に商店街へと向かう為、通学路を並んで歩いていた。
「んん?」
向かう途中、何かが頭に引っ掛かった。
いつもの光景に、小さな違和感がある気がする。
「どうかしました?」
「あ、いや、なんでもない」
直ぐに分からない小さな事だし、きっと気にする事の無い些細な事だろう。
そう、ミナトは深く考えるのを止めた。
「それより、商店街で何か食べるか?」
「えへへ、そうですねぇ。
わたしは、ミナが食べたいものなら何でもいいですよ」
………。
恋人同士のような会話だった。
(…もしかたら、だからあんな噂が立つのか?)
チラチラと辺りを気にして見ると、案の定ほとんどの生徒がこちらをニヤニヤと見ていた。
気にしちゃ駄目だ。
ミナトは無理矢理自分に言い聞かせる。
「…じゃ、じゃあ、クレープでも食べるか?
確か美味い店が商店街に出来たって、カイトから聞いたんだよ」
「へぇいいですね、行ってみたいです」
「よし、目的地は決まったな」
やっぱり周りから視線が集中しているようだが、気にしない。
(気にしちゃ駄目だ。
気にしちゃ駄目だ。
気にしちゃ駄目だ。
気にしちゃ駄目だ。
気にしちゃ駄目だ。
気にしちゃ駄目だ。
気にしちゃ駄目だ)
「気をしっかり保ってください。
シ〇ジ君みたいになってますよ」
「……、サラっと心を読むな」
ミナトがクゥとルームメイトになって知り合ったのは四月から、なのでまだ一ヶ月も立っていないのだが、クゥとの付き合いは随分長いように感じられた。
「…クゥ、お前はいいのか?
俺とクゥが付き合ってるっつう噂。
明日にはパワーアップしてるかもしれないぜ」
「別に構いませんよ。
言いたい人には言わせておけばいいじゃないですか」
「言わせておけばいいって…。
いいのかよ、それで」
「えへへ!
わたしは、ミナの事大好きですからね」
「!?」
クゥのはにかみは、それはもうとびっきりの可愛いらしさだった。
またしても、ミナトの顔が真っ赤になっていく。
(このド天然め。
…恥ずかしい事言いやがって)
しどろもどろしながらも、何とか言葉を紡ぎ出す。
「…そ、その、俺も、お前の事、好きだ…けど、よ」
ポリポリとこめかみを掻く。
「そういう木っ端恥ずかしいことをこんな所で言うんじゃねぇええッ!!
周りの生徒全員固まってんじゃねぇかよ!?」
ヒソヒソヒソヒソ。
「(やっぱりか)」
「(やっぱり)」
「(付き合ってんだな、あいつら)」
「…あぁ、もう駄目だ。
これ、明日には夫婦として扱われててもおかしくねぇぞ。
…それだけは、何としても避けねぇ――」
「夫婦だなァ」
「……夫婦」
「…気のせいだ。
後ろに、“バカ”のカイトと“無口”のレンが居る筈がない、絶対にない、ある筈がないッ!!
走るぞ、クゥ!!」
「…えと、なぜそんな『夕日に向かって走ろうぜ!!』と熱血教師的なテンションなんですか?」
ミナトは朝と同じように強引にクゥの手を掴んで、商店街へと慌てて駆け出した。
いや、逃げ出した。