第一章

□鋼鉄の乙女
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「なぁ、エイン。
ここは?」

完全に夜の帳が下りてしまった時間帯。
電気代節約の為、街灯も午後七時(全校生徒の門限である)には全て消灯してしまう。
その為、辺りは本当に真っ暗だった。
もしかたらミナトも、エインと手を繋いでいなかったら迷子になっていたかもしれない。

「ボクが住んでる寮だヨ」

エインはそういうと寮の裏手へと歩いて行く。
手を引っ張られてミナトも進む。

「何処に行くんだ?」

「『ペンネーム心の友よぉ』さんのプレゼントを取りに行くんだヨ」

「…ペンネームってラジオかよ。
つか誰なんだよ『心の友よぉ』」

「あ、あったあった」

エインの携帯のディスプレイの光で辺りが照らし出される。

「…何があん――」

――だよ。
ミナトは言えなかった。
びっくりした。
呼吸が一瞬出来なくなってしまったんじゃないかと錯覚してしまった。

「…これ…!?」

「うん。
“武器”だヨ」

大きめの木箱には、武器――兵器――人殺しの道具。

「…何で…!?」

「魔法使いがいるんだから、武器があったっておかしくないでしょ?」

「…そ、そりゃそうかもしれねぇけどよ…」

エインはガソゴソと木箱を漁り始める。

「ミナトは何か使った事のある武器ってある?」

「…な、なんつー質問だよ。
…え、えっと…、竹刀とかなら…剣道とかで」

「はい。 じゃあこれ」

エインが持っていた物は日本刀だった。

「いや、いやいやいやいや!?
これ…日本刀って!?」

「魔法使いとの戦いじゃ武器の優劣は関係ない。
魔法との相性とか、使い慣れた物でいいんだヨ。
無理に拳銃とか使っても危ないしネ」

「いや、そういう事じゃねぇよ!?
何で色んな武器が寮の裏手の木箱に入ってんだよ!?
…それに、いきなりそんなもの渡されても…」

「…そうだよネ。
キミは武器なんかとは無縁の暮らしをしてたんだよネ。
…でも、川澄ソラを助け出す為ならそうも言ってられないんだ。
それに、加藤ユエを敵に回してしまった」

「………加藤ユエ。
…ユエってそんなにヤバイ奴なのか?」

「バルカン。
それが彼女の異名<コードネーム>」

「…バルカンって確かヨーロッパの火薬庫だっけか?」

「多分ネ。
聞いた話だと、火薬庫って言うよりかは、爆薬庫って感じらしいけど」

…………。

「…さ、流石に冗談ですよね?
ねーエインさん?」

「はい、日本刀」

「うわぁああああ!!
そりゃ確かにサブマシンガンぶっ放して来やがったけど!!」

「聖剣エクスカリバー」

「…は? え? まさかこの刀!?」

エインから日本刀を受け取ると、それはズシリと重たかった。
言われてみれば聖なる剣に見えなくもない。
エクスカリバー。
ゴクリとミナトは唾を飲む。

「だったら面白いよネ?」

「お前、楽しんでるだろぉおおおおお!?」

「あはは、そんなことないよ。
ちなみに名前はないらしいけど、名刀だって話だよ」

「…名前がない?」

「付けてあげたらいいんじゃない?」

「…んなペットじゃあるまいし…。
とりあえずじゃあ“けん太”で」

某軽音楽部のギターみたいな名付け方だった。

「いやここは、天上天〇天地無双刀」

初めてその存在を知った時、誰しもが一度は作ってみたいと思う武器の名前だった。

「エターナルフォースブレード」

相手は死ぬ。

「とりあえず、日本刀でいいや」

「結局そのままなの?」

「…いや、武器に自分で名前つけるのって恥ずかしいだろ」

それにイタいとミナトは思った。
元々ついてるならともかく、と。
とりあえず鞘から刀を抜いて、構えて見る。

「…なんだか、様になってるヨ」

「ん? ああ。
…なんだろ。
初めての筈なのになんか使った事がある気がすんぜ」

「もしかしたら七年前に使ってたのかもしれないネ」

七年前。
上書きされた記憶。
(俺の頭の中には、小学校に通ってた記憶がある。
魔法使いにされた記憶なんてねぇ)
刀を鞘へと納める。
ついでに受け取ったホルダーを腰に付け、侍のように刀をしまう。
(…記憶を消したってそういやいったい…。
…“七年前”からいったい“いつ”までが上書きされた記憶なんだ?
中学生の思い出は本物か? それとも偽物なのか?)

「ミナトッ!!」

「へ?」

「来た!!」

「来た!?
…来たって何がッ!?」

瞬間、閃光が辺りを包む込む。
視界が真っ白になる。
頭に一人の少女の顔が浮かんだ。
バルカン――加藤ユエ。

「いいミナト! よく聞いて!」

目映い光の中でも、エインの声ははっきりとミナトの耳に聞こえてきた。
ギュッと手を握られる。
何も見えなくても、エインの暖かな体温を感じられる。
エインの声はミナトに届く。
それだけでミナトの不安がなくなっていくような気がした。

「約束通り、キミはボクが絶対に守る。
けど、危険だと感じたら直ぐに逃げるんだヨ!」

「嫌だ!」

「うん!――て、えぇっ!?」

「俺だってお前を守るって約束したろ!
だから、もし逃げるとしても二人で一緒にだ!!」

「…ミナト。
…なんかそこだけ聞くと、ボク達駆け落ちしてるみたいだネ」

エインが笑った様子が、繋いだ手から伝わってくる。

「戦おう、一緒に」

「ああ、行くぜ相棒!!」
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