第一章

□魔法使い
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魔法使い。
異常の高校生。
コンクリートを素手でぶち壊し、ありえないスピードで移動する高校生。
しかし弱りきったエインは、ただの普通の高校生であるミナトと、何も変わりはしなかった。

「これでよしっと」

ミナトの部屋にあるベットにエインを寝かせる。
あの後。
倒れたエインをおぶって、ミナトは自分とクゥの寮部屋まで歩いて戻って来ていた。
他の生徒達は言い付けを守っているのか、出歩いている生徒は誰もいなく、誰かと偶然バッタリなんてことはなかった。

「…クゥの事も心配だけど、今はエインだな。
それに腹も減ったし」

ぐぎゅるる〜と、タイミングを見計らっていたかのようにお腹が鳴る。

「…クゥは今頃、どうしてっかな。
…直ぐに殺されるなんて事はねぇと思うけど」

それと言うのも、クゥが死ぬ事が非現実的過ぎて、ミナトにとってただ想像出来ないだけであるのだが、それでもミナトはクゥの無事を祈りたかった。
信じたかった。

「…ちくしょう…」

吐き捨てるようにミナトは言う。
とにかく今は、エインの回復を待つしかない。

(…起きた時に何か食べられる物があった方がいいよな。
簡単な焼飯(焼飯は焼飯で本当は奥が深いんだろうけど)でも作っといてやるか)

「黒の〇神が作る料理並に美味しい焼飯を作ってやるぜ!」

そう意気込んで台所へ向かい、冷凍庫から『五分で出来る冷凍チャーハン』を取り出す。
冷凍じゃねぇか!?
とツッコミたいところだが、料理経験が浅いミナトにはこれが精一杯だったのだ。
いつもの料理担当はクゥの為、ミナトが作る事は色違いのポ〇モンと遭遇するくらい珍しい。
クゥは朝が弱いため朝ご飯はミナトの担当なのだが、基本トーストだ。
だから冷凍も仕方ないと自らに言い聞かせ(自分を洗脳し)、熱したフライパンで炒め始める。
(…とりあえずじゃあ、焼飯炒めながらにでも今の状況でも纏めてみるか?
…っても、フェルマータとか言う変な奴にクゥが攫われたとしか…)
そこでミナトはふと気付く。
(…んん?
そういや、なんでクゥが狙われたんだろう。
…偶然って訳じゃねぇよなぁ。
…フェルマータも、エインも、クゥの名前知ってた訳だし。
クゥに関係のある事か?
スクー〇デイズ的な人間関係がクゥとエインとフェルマータで構築されていた……訳はねぇだろうし。
ありえねぇ。
となるとやっぱ、“魔法”関連か?
……う〜ん、…分かんねぇな。
そこらへんは、事情を知ってそうなエインに聞くしかねぇか)
更に続けてミナトは気付く。

「…つか結局、どれもこれもエインがいないと分かんねぇ話ばっかじゃねぇかよ」

そう。
やはりエインがいなければ、話は何も進まないし、見えても来ない。
ミナトは溜め息を吐いて、冷凍焼飯を二つの皿に盛り付ける。

「…ん?」

「……ミナト?」

すると、リビングの扉が開き、エインがひょっこりと顔を覗かせた。

「おぉ、起きたのか!」

台所から移動して、リビングのテーブルに焼飯を置く。

「…うん、ゴメンネ。
迷惑かけて」

「謝んなよ。
当たり前の事をしただけなんだから。
とにかく食べろ、冷凍だけど、何も食わないよりマシだぜ」

ミナトが椅子に座ると、エインも頷いて、ミナトの向かいの椅子へと座った。

「もう大丈夫なのか?」

「うん、大分よくなったヨ」

「そっか」

とミナトは焼飯を口いっぱい頬張る。
――うん、普通だ。
やはりいろいろと普通な味だった。
五分で出来るだけありがたいのかもしれない。

「…あのネ、ミナト」

「ん?」

「…やっぱりボクは、ミナトを巻き込みたくない」

「………」

「…けど、ボクは勝負に負けた。
だから、話す」

(…負けたつっても、あれは勝負として無効な感じなのに)
律儀な奴だ。
ミナトは改めて、エインが良い奴だと思った。

「…だけど、約束してくれないかな?
川澄ソラを無事に助け出したその時は、川澄ソラと二人で一緒に記憶を消すって、普通の生活に戻るって…」

ミナトは動かしていた箸を止める。
どうやらその約束をしないと話してくれなそうな雰囲気だ。
まぁクゥを助け出した後なら別に問題はないだろ、とミナトは頷いた。

「分かった、約束するよ」

「…うん、ありがとう!」

ニコッと満面の笑み。
相変わらず可愛らしさだった。
ミナトの顔が真っ赤になっていくのが端から見てもよく分かる。
(…美少女過ぎるんだよ、エインは。
ん?
そういやエインって美少女コンテスト出てたっけ?)

「ミナト、どうかした?」

「いや、何でもない」

「そう。
…じゃあえっと、まず、何から説明しようか?」

「とりあえずは“魔法”だな」

クゥを助ける為には、一番重要になるポイントだろう。
魔法。
謎が多い、不可思議な力。

「“魔法”、か。
そうだネ、分かった」

エインは頷き、「その前に焼飯食べてもいい?」と首を傾げた。
――むぅ、かわいい。
なんだか気恥ずかしいかったのでミナトを視線を逸らして頷く。

「ああ」

「ありがと! いただきます」

エインはもぐもぐと美味しそうに焼飯を口に放り込んでいく。
冷凍なのであまり味は美味しくない筈だ。
それなのにエインは美味しそうに焼飯を食べる。
もしかたら何も食べてなかったのかもしれない。
そうミナトは納得した。

「…えとネ、まず、“魔法”を語る上で、話さなきゃいけない事があるんだけど…、…驚かないで聞いてくれるかな?」

焼飯を一通り食べ終えたエインは、そう切り出した。

「ああ。
俺は大体の話にならついていけるくらいの事は出来ると思うぜ」

ミナトのその自信は、自分の部屋にある膨大な少年漫画から来ていた。
案外あっさり受け入れられるんじゃないかと、ミナトはそんな事を考えていた。
しかし、ミナトのその考えは甘かった。
甘くて甘くて、チョコレートのように甘かった。

「…ボク達。
…つまり、この神奈島に住んでいる生徒全員はネ。
…七年前に魔法使いにされちゃったんだヨ」

「………、はい?」

何を言われたのか、よく理解が出来なかった。
持っていた箸が、ミナトの手から滑り落ちる。
エインは、そんなミナトの瞳を見て、もう一度しっかりと告げた。

「ボク達みんな、もう魔法使いなんだヨ」
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