キャラクター紹介

□お人良しの君―後編―
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真っ暗な世界。

暗くて、暗くて、暗い世界。

等間隔毎に設置された蛍光灯がなければ、多分、何も見えなくなってしまうだろう、世界。



時刻は、既に『約束の時間』をとうに過ぎてしまっていた。

…兄貴達には、悪いことしたかな。

ぽつりと呟いて、時間を確認する為に開いていた携帯を、ポケットにしまう。

「……なんじゃ、もう終わりかのう?」

車を隔てた遠くの背後から聞こえてきた、若い声。

…クソッと舌打ちをして、咄嗟に車から離れる。

その丁度一秒後、あたしが今まで隠れていた車が、ひしゃげて、凹んで、爆発した。

「…うぉっ!!」

爆風の余波を受けて、そのまま前転をするようにユエの前へと飛び出す。

「…ミナッ!!」

………っ!?

シーグの声で跳ね起きて、そのまま前方の柱の陰へと飛び込む。


ドォオンッ!!

銃声。 そして遅れて、地面が爆発した。

…やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいッ!!

頭の中でその単語だけ連呼しながら、あたしとシーグ、それにユエだけの地下駐車場を駆け抜ける。

たったったったった!

一定のリズムで、足を交互に、全力で振るう。

…さっき走り回ったせいで体力が、もたねぇ!

とは言っても、立ち止まった瞬間『ドカン!』の一発で、あの世行き確定なので、止まるに止まれない。

「また来るヨ!」

シーグの声を合図に切り返して、反対方向へ飛ぶ。 …少し遅れて爆発。

「しっかり逃げないと当たってしまうぞい」

嫌らしく微笑むユエ。

狩り気分で戦いを楽しんでいるのか、負傷してあまり動けないシーグを狙わず、あたしの事だけを執拗に狙っていた。

…性格悪過ぎだろ。

…ま、その方がこっちにも好都合でもあるんだけど。

「ミナ、来るヨ!!」

シーグの合図で飛び込み前転のように車の陰に隠れる。

更に銃声…そして衝撃!

「…くっ!」


立ち止まってる暇はない。

立ち止まったら、死ぬ。
立ち止まったら、撃たれる。
立ち止まったら、潰される。
立ち止まったら、殺される。

立ち止まったら……。

限界だろうが、体力なかろうが知ったこっちゃない。
立ち止まれないんだ!
両足に鞭打って、駆け出す。

「よしッ!」

あたしは、勢いそのままに、ユエの元へと全力疾走していく。
距離は、およそ七メートル半。

「ミナっ!?」

「…真正面から向かって来るとは、頭でも打ったんかのうっ?」

大きな大きな銃口が、あたしを捉える。

「遠距離戦主体のお前に、遠距離戦するわけねぇだろぉーッ!!」

引き金に指が掛かる。

「確かに、それはそうじゃの」

ドオオン!!

耳が破けるような発砲音。

「…………っ!?」

戦車の装甲を貫く為の弾丸は、あたしの僅か数十p右に外れた。

…あっぶねーッ!!!

それと言うのも、あたしの身体が左へ飛んでいたからだ。

左からの、軽い衝撃。

「信じてたぜ、相棒!」

「…全く、作戦にないこと、あまりやらないでよネ」

空中でそれだけ言葉を交すと、二人して固いコンクリートにぶつかった。

「…ててて。
悪かったよ、作戦にないことしてさ。
でも、信じてたからな、お前の事」

「…っ!!?
…そ、その嬉しいヨ。
ケド! 今度から絶対危ないことしちゃ駄目だからネ!」

「…わ、分かったよ」。

と、頷きながら血だらけのシーグの腕を見て、本気で反省。

…無茶させちゃったな。

と、聞こえないように呟く。
聞こえるように言ったって、『気にしないで!』とか無理して笑うだけだし、そんなのは見たくなんかない。

「…おいおい。
二人して仲良くやって余裕じゃのう」

その言葉に、ニヤリとあたしは笑った。

「…余裕にもなるさ。
それ、五発しか撃てないんだろ?」

「……………!?」

ユエの顔が一瞬歪む。

…なんつったけ?
……えぇと。

「シモノフPTRS1941」

シーグは説明口調で続ける。

「初速約1010m/s、弾は14.5mm。
…て、まぁ、めんどくさい説明はいいよネ、気になる人はWikipe〇iaで調べてヨ(べ、別に説明が面倒くさい訳じゃないんだからネ)」

気になるって人って誰だよ?
が、そこは触れちゃ駄目だと思うので触れない。

「…なるほど、知っておったのか?」

「まぁネ。
ゲームやってると、知識はどんどん増えていくヨ」

「流石ゲーマー!
…そんで、どうするよピンク頭?
お前が弾を補充する間だけで、あたしの拳は百発ヒットするぞ」

距離は三メートルもない。
弾の補充など、出来る訳がない。

「…どこの北斗〇拳の使い手じゃ、お主は?
それと、もう一つ――」

ガチャンと銃口の照準があたしを捉える。

「――いつの話しをしておるんじゃ?」


……は!?

距離は三メートルもない。
弾の補充など、出来る訳がない。

しかしそれは、あたし達が弾丸を避けられない事も意味していた。

――もし、弾がもう一発残っていたら?
時代の流れと共に、銃が進化していたとすれば…、

速攻魔法並のスピードで答えが出る。

『死ぬ』


…嘘!?

鼓動が早まる。

嘘だ!!? 嘘です!!!? 嘘だろっ!!!!? 嘘だぁあッ!!!!!?

「マ、ジ、じゃ☆」

引き金に指が掛かった瞬間――


「――だらぁあっ!!」

「…な!?」

超能力を使ったのか、はたまた別の何かをしたのかは、あたしによく分からない。
いや、理解出来ないのか?

シーグは一瞬にして、あたしの隣から、ユエの隣へと移動していた。

しなるような蹴りで、対戦車ライフルの銃口が大きくずれる。

ドオオンッ!!

轟く、響く、銃声。


狙いがあたしから大きく外れてくれた弾丸は、力を見せ付けるかのように分厚い鉄筋をぶち壊した。

「………〜っ!?」

…本日二度目となる死の覚悟…。
ドサッと腰が抜ける。

…やばっ、心臓バクバクだ。

「…大丈夫、ミナ?」

「…お、え、あ、うん、だいじょぶ」

「…大丈夫じゃない、と」

優しく腕を引っ張られて立ち上がる。

「…サンキュ」

立ち上がりついでに、右の拳を振りかぶる。

「…待て待て待て!
お主動作がおかしいぞ!?」

「知るか。
ビックリさせやがって!
今度こそ、弾切れだろ」

というか、弾切れじゃなかったら困るのでサクッと片付けたい。

「歯を食いしばる猶予はやるよ、0.2秒間?」

「意外と呆気なかったネ〜」

シーグは、左の拳を振りかぶる。

「………待たんかッ!?」


力の限り、

思いっ切り、

全力で、
拳を叩きつけた。
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