□No.08
1ページ/18ページ


「ほんとだって!
すっごいかっこよかったんだから!!」

興奮した様子で、少女が昨日自分が見た光景についてまくし立てる。

「かっこよかったけど、言葉的にしっくりくるのは美しいって感じだった!」

「あーーっ、そうかも」

嬉々として話す何人かの少女に、明らかな不満の声がいくつか上がる。

「えー!!あたしも会いたかったあ」


「初等部の制服着てたし、また探してみよーよ!」


噂好きの中等部では一瞬で、噂は広まっていた。
あと、一部の初等部にも。





だけど、私は気づかなかった。

大きな噂になっていることに。

自分の姿を見られたことが偶然ではなかったことに。

――気づけなかった。




***




――この日、学園に激震が走った。

「確かに俺は聞いたんだ……
アリス祭3日目の【イベント祭】でそのメインゲストに
学園出身のハリウッドスター『レオ』が予定されていることをっ!!!」


「「「「どっひゃーーーー!!!」」」」


その言葉にクラス中が沸いた。

「しかも、だ。
そのレオが何と今日、この学園の付属病院に来るという情報を手に入れたのだ!!!」


「「「「ギャヒーーーーン!!!!!」」」」


(…っていうかレオって誰?)

蜜柑は何も知らないまま、一緒に叫んでいた。
理由はただ楽しそうだったからというほかない。

「なあなあ『レオ』って何なん?」

「お前何も知らずに騒いでたんかーーー!?」

「いや何となくで…」

そういうと、委員長が説明してくれる。

レオは歌手で俳優で、声フェロモンのアリスの持ち主。
どうやら、もの凄い有名人らしい。

1回見てみたいかもなー、と蜜柑は少しの興味をもって聞いていた。

それと同じくして、蜜柑は自分の体の気だるさに耐える。

しんどい。
だるいし、身体もなんだか熱っぽい気がする。
けれど幸い今日は病院の日だ。
少しだけだが、休める、そう思うと蜜柑は自然とほっと、息をついた。


そんな中、クラスのムードは最高潮に。
そして、レオに逢いたいコールが始まる。

できれば静かにしてほしいんだけどなあ、と蜜柑が無駄な願いをしていたら――。



「ちょっとうるさいわよ!!あんたたち!」

パーマの一括で一旦そちらに意識が向けられる。
すると、乃木流架の落ち込んだ姿が目に入った。

「どしたのルカぴょん」

つーっと背中をなぞったら、殴られた。

とりあえず事情を聞きたいので、殴られたことについてはスルーしておく。




「棗が入院!?」

サボリじゃなかったのか、と蜜柑は驚きでわずかに目を見張る。
入院してたなんて知らなかった。

聞くところによると、原因は過労による体調不良。

おかしい。
任務なら私が代わりに引き受けているはず。
全部ではない気がするが、それでもましになっているはずだ、と1人頭の中で自分自身に言い聞かせる。

そしてこの前の話を思い出す。




『お前さ、俺に何で任務するのかって聞いたけど、お前はどーなんだよ』

『は?』

唐突に聞いてくる暁に、棗は一瞬固まる。

『……葵、妹がこの学園にいるからだ』

『……棗、』

2人のその言葉と表情だけで充分だった。
人質というわけだろう。

あの校長も随分と汚い手を使う。
わかってたんだけど、やっぱり目の前にして納得できるほど私は出来た人間じゃない。

『それが、お前が戦う理由ってことか。

…じゃあ俺も手伝おっかな、日向葵救出作戦』

『『は…?』』

また固まった。今度は2人で。

『いいだろ?別に』

暁は笑いながら、明るく話す。

『…な、んで、』

『助けたいと思ったから』

暁はさもそれが当たり前だと言うように、きょとんとした表情で言う。

『それに……』

『それに、何だよ』


『愛しいと思ったから。

…大切な人を想う姿が、護ろうとする意志が』

真っ直ぐ目と目を合わせて、そう言葉を続ける。

『……な!?』

棗の顔には思わず朱が走る。

そんな様子に言った本人は恥ずかしがることもなく不思議そうにしていた。

(何か変なこと言った?)

昔は思ったことをよくすぐに口に出していたから、暁にとっては普通だった。

昔、あいつにも同じようなことを言ったような気がするけど、
あいつは嬉しそうに、蜜柑のそーゆうとこ好きだよ、なんて返してきてたことを思い出す。
だからこんな反応は初めてで、暁はついまじまじと見てしまう。

そして思い出したようにああ、と暁は声を出す。

『……お前もだよ?
乃木流架は、優しいところかな。
お前は、いっつも人の心配ばっかりだ。
そんで、それを素直に表せる』

そういうと、乃木流架は朱を走らせるどころじゃなく、真っ赤になる。
おもしろいなあ、と反応を感心したように見ていた。

そうやってまた観察してると、2人ともが怒ったような照れ隠しの低い声で怒られた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ