□No.02
1ページ/8ページ


いつのまにか、先生は消えていた。



(……あれ…?
入学テスト、意外と難しい、かも?)




「あ、あの、初等部B組へようこそ、佐倉さんっ!
僕、クラス委員の飛田裕です。
困ったこと、分かんないことあったら何でも聞いてください」


おお、今気づいた。
蛍しか目に入ってなかったわ。


「何だよ、こいつ」


空中に人が浮かんでいる。


浮遊力のアリスか。
大したことないな。
さして興味もないので一度向けた視線を元に戻した。


「……蜜柑…?…あなた、何で、」


驚かないの、と蛍の顔が言っている。





ほんとだ。
何で?

自分は【アリス】というものを初めて見る、はずだ。

いつもの自分なら驚くところなのに。

またこれだ。





「……かん、……蜜柑ってば」


パカーンッ


痛いですよ、蛍さん。
それが、親友に対する仕打ちなん?
そんな言葉もきっとこの親友には通じないだろうが。


「私達、ここでは一切他人ってことでよろしくね。
色々あると思うけど、自分の力で頑張って」


(……え…?)


もしかして見捨てられた?
予想もしていなかった言葉に言い返す言葉が見つからなかった。


(………、)


相変わらずわけわからんやつーっ!!
それでも好きやねんけど、と蜜柑は告白まがいの言葉を心の中で呟いていた。


「佐倉蜜柑です。どうぞよろし――」



バコッ



物が飛んできて、副担に当たる。


……学級崩壊?
そんな言葉が頭を過ぎる。
とりあえず、自分の席に行くと。


「あーーっ!!!変態男ーーっ!!!」



隣にいたのは、朝に逢った日向棗だった。


「ああ、お前昨日の。何言ってんだ?バーカ」

「よくもウチにあんなことしといて……謝れバカーっ!!」

「棗さんに、何調子こいた口聞いてんだコラ」


日向棗の取り巻きっぽい人に、持ち上げられた。

いきなり視点が変わったものだから驚いたが、あまり怖くはなかった。

しばしボーゼンとする。


「や、やめてよ、みんな!!」


唯一優しい委員長が助けてくれようとする。
が、また邪魔するやつが現れた。


「あら、やめる必要ないわよ。さっきからアリスと思って黙ってみてれば何?この子。
棗君や、流架君のことバカ呼ばわりしてたじゃない」


「……降ろせ」


「……そういう優しい所も棗君の魅力の一つだと思うの」


コロッと態度が変わる。



こいつ、やっぱりモテるんや。
これは想定内。
まあ、顔は整ってるしなあ、性格は最悪やけど。
人は顔やと思ったら大間違いや、というのは自分の中だけにとどめておいた。

地面に足がつき、ふわふわした感覚がなくなる。


「おい、水玉。お前、どういうアリス持ってんだ」


高圧的な言い方。


ムカついたので無視すると、もう一度空中に浮かぶ羽目になる。





さっきから、この空を飛ぶ感覚、何か覚えがあるんよな。
少し、違うけれど、ふわふわした感覚は似ている。
ウチ、空なんか飛べたことないのに。




そんなことよりも。

どうやってごまかそう。


ウチは――


「鳴海先生に連れられてきただけで、自分がアリスなんか知らんしなー。
ウチってほんまにアリスなんかなー」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ