□No.01
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はあ、はあと息をついて走る。
朝の冷えた空気が肌に突き刺さった。
目当ての人を見つけて、大きく息を吸い込んだ。



「蛍っ」

大声で呼びかけると、呼びかけられた彼女のほうは落ち着いたソプラノボイスで名前を呼ばれる。

「蜜柑」

「この……、大ボケ、ボケナスゥーーっ!!」

とび蹴りを食らわせようとするが、返り討ち。




ぶっ飛ばされた。
それも、ハエ叩きで。




こうなったのには訳がある。
うちをぶっ飛ばした張本人、蛍は、うちの幼馴染で、親友(これでも)。

この蛍は、前から変人やと思っとったけど、実は天才やったみたい。
国のスカウトで、蛍は東京にある天才しか入れん学校に行くことになって、小さなこの田舎町は大騒ぎ。

みんなが言うには、蛍は只の天才やなくて【アリス】てゆー”別格”な天才なんやって。





(……【アリス】?)


何か頭にひっかかった。
ウチは、この言葉を知っている。

(なんで?)

まあ、今は深く考えない。
いつものことだ、どーせ考え出したら、また忘れるのだろう。





それよりも、今は、と頭を切り替えた。


「この蛍からの手紙……
ここに『遠くの学校に行く』てあんねんけど、
……しかも出発、今日で小・中・高エスカレーター式の学校て……、」


「ああ、全部本当よ」


「んな大事なことこんなカメ使おて知らせるなーっ!!!」


「だってあんた、早めに知ったら知ったでうるさいし…」

殴りかかろうとするところを皆に止められる。

「蛍のアホバカ、不感症ーっっ
何で黙ってたんよーっ!!!」

「………、バカね、蜜柑。
こんなの泣くほどのことじゃないわよ。
一生逢えないわけじゃないし、夏と冬の休みには帰ってくるし、手紙もあるじゃない」

「だって蛍」

そっと、頬に手が添えられて、ドキンッと胸が高鳴る。

周りの視線に気づいていない。

そうして、蛍は行ってしまった。









――3月、4月、5月、6月、7月、8月。



「やっぱり連絡途絶えるんやんーーっ」


叫びながら蜜柑は地面に突っ伏す。

「蛍ちゃんは、面倒臭がりじゃからのう……」

そんなじいちゃんの言葉を引きずりながら、蜜柑は学校へ向かった。








ここまでしなくてもいいと思う。

蜜柑は、今、廊下に出されていた。
蛍のことを考えて、考えすぎて、いつの間にか、叫んでいたら、廊下に放り出された。
そんなことも気にしないぐらい今彼女の心は沈んでいた。

(ちょっとぐらい叫んでもいいやんか……)

ちょっとどころではなかったが、本人にとってはちょっとだったようだ。






ブツブツと心の中で愚痴を言う。

そんなとき、クラスメイトの声が聞こえてきた。
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