□No.02
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(……は?)


自分の思ったことが、違うところから、聞こえてきているような気が。


そこには、笑顔の少年が。

こいつ、ウチの心読みやがった。
そう理解すると同時に思わず顔を顰める。


「信じらんない!その子、自分のアリスも知らないの!?」


すごいブーイングの嵐だ。
これって、収拾つくのかなあ、とどこか他人事のように考えている自分がいる。



「まさか、この子、アリスを騙ってもぐりこんだんじゃない!?
ずうずうしい!」


その言葉に蜜柑は反応した。

まずい、このままでは蛍と一緒に居れなくなる。
そう思った途端、他人事ではなくなって蜜柑は反論し始めた。


「ちゃう!!鳴海先生が、ちゃんとウチのこと、アリスって――」


「じゃあ、証拠見せてよ」


それを、言われたら、困る。
そんなこと、出来ない。


「大体、アリスアリスってさっきからなんやねん!
そんなにアリスが――」

「えらいわよ」


即答された。
まだ言い終わってさえなかったのに。
人の話も聞けないのか、とどこか呆れのようなものを感じた。


「えらいわよ。あなた何もしらないみたいだけど、
私達アリスは、国に認められ、保障されてる特別エリートなのよ。
アリスを自分に見合った場所で発揮することによって、
政治・芸術・学問、いろんな分野で多大な功績を残してきたわ。
この国のスペシャリストは、ほぼアリスで成り立っていると言っても過言じゃないのよ」


そうやったんや。
でも、それらはすごいことなのかもしれないけれど、偉いのとは違うやろ、と無意識に眉間に皺がよった。


そんなことを考えているうちに、また何か言ってくる。
その言葉を聞いたとたん、蜜柑のなかでなにかが崩れ落ちた。



「アリス以外の人間なんて、アリスに群がって恩恵を受ける寄生虫か、手足となるだけのただの働きアリ、いわばただの引き立て役よ。
私達は選ばれた人間なの。
使い捨ての、いくらでも代りのきく、一般庶民とは人間の格が違うのよ」


自分を見下す、たくさんの目。
ふつふつと、何か自分では抑え切れない感情が蜜柑のなかに湧き上がってくる。
次の瞬間、勝手に口が動いていた。


「……誰が、そんなこと決めた」

「……え…」

「そんな事、決める価値を持った人間なんていない。
アリスであろうとなかろうと、命は同じだ。
ここに居る全員はアリスでも、その親は?親戚は?学園前にいた場所の友達は?
使い捨てなんて、きくものじゃない。
そんなこともわからないなんて、バカ以下」


鋭い目。

口調だけでなく、雰囲気まで変わっている。
そうとうキレた状態だ。
見下されることに、トラウマでもあるかのような変わりよう。

そのあまりの豹変度に、日向棗さえも目を見開いている。


だが、一瞬でも戻る。


「……あ、れ、ウチ……
と、とにかく!あんたらが、人より上のものがあるなら、その腐った根性だけや、ボケッ」

「……てめぇ」

「どーせ、アリス以外取り柄ないんやろ?」

「!!!こいつ」


髪の毛を引っ張られ、殴りかかってきた。

顔面に直撃しそうになったので、蹴ろうとしたら。



バキッ



それより早くぶっ飛んだ。



「…ほ、蛍…!!」

「今井さん!?」

「このバカ泣かしていいのは、あたしだけだから。
勝手に手出ししないで」


(……蛍、)


「まったく、これで優等生賞がパアだわ。
今まで何のために我慢してきたんだか……
<セントラルタウンのお食事券1ヶ月分>特典。
……<一週間の実家への里帰り券>」


(あ……、)


「だから、あんたからうちの両親に謝っといてよね。
……まあ、あんたが自分から逢いに来るなんて予想外だったし、逢いに行く手間が省けた分、今回はチャラにしといてあげる」


やっぱり蛍、大好きやー!!!


「……言っとくけど、お食事券に関しては、勿論、別で貸しだからね」


(………、)


こんなときにも蛍は蛍だと、思わず苦笑した。


「もう何だって、いいよー!!
蛍、大好きー!!」


思いっきり抱きつく。
完璧に二人だけの世界だ。


「な、棗君、流架君っ!!何とかしてー!!」


「………。……おい水玉」


蛍のおかげで、上機嫌だったので、振り向く。


「お前、一週間以内でこのクラスに馴染めなかったら、正式入学出来ないんだってな」


心読み君(名前がわからないから)か!


「お前にチャンスをやるよ。
そこの【北の森】を通って、高等部に行って足跡つけてきたら、
素直にお前の実力を認めて、アリスとして受け入れてやる」

「!!!そんなの、無茶だよ!」



(……無茶?)


森を歩くだけなのに無茶。
まったくわけがわからなくて思わず首をかしげてしまった。


また、めんどくさいことになりそうな予感。
だけど、蛍と一緒にいられるなら、軽いものだ。


「やんのか」


「やる」






心優しき委員長と、逃げる蛍を引き摺って、無理矢理お供に、いざ北の森へ!
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