□No.10
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「んじゃ、後でな」

「んー」

蜜柑の適当な返事も気にせずに、ハルは窓から外へと消えた。
それを確認したあと、今日の準備を始める。

今日は文化祭だ。
任務続きで、身体を動かすことも億劫なのだが、仕方ない。

校長の呼び出しがあった次の日の夜、今までの自分のことを大体の説明をした。
そのあとのハルはしばし思案顔だった。話しかけると、いつも通りの笑顔に戻ったが。

考えを巡らせながら、【偽り玉】を1つ取り出して、床に投げつける。

「何か頼むまでここで待機してて」

「はい」

とりあえず保険は用意しておいたほうがいい。
ハルにも渡しておいたから、今頃はあいつも使っているだろう。
本当はハルの分も買いに行くつもりだったのだが、時間がなかった。


(……逢いたかったのにな、)


その時に壱葉さんたちにハルが生きていたことを見せたかった。
生きていたことはあの人のことだからもう知っているだろうが、それでもちゃんと実際に見せたかったのだ。


簡単にシャワーを浴びて、髪の染料を落とす。
最近は任務のためか、どれほど時間が経っても白銀から亜麻色に戻ることはなかった。
着替え終わり、確認のため、等身大ほどもある鏡の前に立つ。
今からのことを考えながらだったので、鏡の中にいる自分の顔の眉間には皺が寄っていた。
見世物にされるのは、誰だって嫌だと思う。
心底、動物園の動物に同情する。
相手が子どもなだけあのときよりまだましな気もするが、
見世物にしようとしている人間の思考は一緒であるように思えて、虫唾が走った。

ここでくだくだ悩んでいてもこれからの予定が変わるわけでもない。
もう待ち合わせ場所で待っているだろうハルのもとへ行くために扉を開けると同時に、その思考は途絶えた。




















「遅い。何やってたんだよ」

「ごめん、いろいろ考え事してたら、さ。
てか鏡で確認して思ったんだけど、なんで初等部生と制服違うんだ?」

今、蜜柑とハルが来ているのは上は初等部生と同じなのだが、
下のズボンは赤のチェックではなく、無地のライトグレーだった。
分けられているような感じがして、少しの不快感があった。

「特別生徒による補佐員【アルム】の制服。
『普段は学年と同じ制服でよいが、公の場ではこれを着る事』だって」

くいっと自分の着ている制服を軽く引っ張って見せて、説明する。

今、蜜柑の姿は暁のときのもので、男子用の制服着用で白銀の髪に1つ括り。  
ハルも黒い髪色はいつもと同じだが、ふわふわであったその髪質は打って変わって真っ直ぐである。   
ハルが宵でいるとき変装するものとして選んだのが、それだった。
あまり変わっていないような気がするが、蜜柑はそんなことは気にしていないのか深く突っ込まない。

「私たち二人だけのために、制服まで作ったのか。めんどくさいことするな」

「暇人なんだよ」

きっと、これから私たちに向けられるのは好奇の目。
それを増長させるような服なんて今すぐ脱ぎ捨ててやりたかった。

そんな蜜柑の気持ちに気づいたのか、ハルは微苦笑する。

「好奇の目でもさ、品定めするような気持ちの悪い視線はないだろ。
それに俺達はあのときみたいに弱くないから、大丈夫だ」


「……そう、だな」


だんだんと寮内のざわめきが聞こえてきたので、二人はその場を後にして、目的地へと向かった。
 
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