□No.16
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「みんなーはやくー!委員長帰ってきたよー」

「ただいま」

「おみやげらー!!」


照れたように笑う祐をそっちのけに、クラスみんなの目的はただ一つ。


「え…」


普通ならここでお土産なしにしてやろうとか黒い感情が少しは芽生えてもいいものだが、そこは我等がクラスの委員長。
善良の塊である彼は、黒い感情の代わりに落ち込んでいた。
そして落ち込みながらも、みんなにたかられるままお土産を配っている。


「ぺー」

「は………!?」


いきなり間抜けな声が聞こえると同時に、思わずお土産を配っていた祐の手も止まる。

注文を受けて蛍の作ったペンギンロボット、らしい。作って客に渡したまではよかったのだが、蛍を恋しがって毎夜毎夜なくロボットに同情した客が返品してきたとのこと。

そんなことを聞けば感情は人間そのものだが、心読みくんやキツネ目くんとぺーぺー言って騒いでいる姿を見れば、脳みそのほうは馬鹿のようだ。
普通逆なんじゃないのか、と蜜柑は突っ込みそうになったが、ここはアリス学園。
今さらだ、と思いなおし、それをただ眺めながら委員長からのお土産のお菓子をほおばっていた。

なごやかな雰囲気のクラスに、突然聞きなれた怒声が響く。

「やだーっ!!ちょっと誰の仕業よ、これっ!あたしがもらったお土産に落書きー!」


さけぶすみれの手元をみれば、「Loccaちゃん」人形の顔に鬼のような表情がマジックペンで書かれていてすみれの髪の毛の同じように顔の両サイドの一部の髪のみ巻かれている。ご丁寧に人形の箱の上からパーマ風とまで書かれてあった。
それを蜜柑はそんなものに興味あるんだ、と不思議そうに見つめる。小学生であれば興味があってもおかしくないのだが、普通の幼少期を過ごしていない蜜柑にしてみれば記憶がなかった間を抜いたら人形で遊んだ思い出などほとんどない。


「誰の仕業だろうねー」

「ねー」


ずれた思考の蜜柑をよそにすみれは目をぎらつかせて犯人さがすなか、自分たちはまったく関係ありませんというふうな口を利いている心読みくんとキツネ目くん。そしてその手にはきっちりカーラーとマジックペンがにぎられている。

それを見つけたときのすみれは、人形の落書きの表情そっくりである。


「ちょっと委員長!こいつら幻覚でこらしめてやってよ!!文化祭のときみたいなえっぐいので!せっかく買ってきてもらった私のお人形なのにー!かたきとってよっ」

もうすでにすみれがどついたせいであたまにはたんこぶ、目には涙姿は十分こらしめられている。「だってパーマえらそうでうざいんだもん」などといっている時点で、こりていないことがまるわかりだが。


「何で僕?!」

「委員長でしょ委員長!!」

「は、はいぃぃ…」


まったく関係なく、むしろお礼を言われる立場なのに怒鳴りつけられる。祐はわけがわかなないがとりあえずあんまり怖くないものを、と半泣きでアリスを使うため手を組み合わせた。

近くで未だに響くすみれの怒鳴り声。
我関せずと祐からのお土産を平らげる蛍とその近くに座る蜜柑。

にぎやかすぎる教室は、いつもどおりのはずだった。


「……あ、れ……」

騒がしいクラスで、それはおこった。

「……、アリスが、でない…」

「…………え、……?」


小さな呟きがもたらしたのは、戸惑いと静寂だった。




―――――…
――――――……
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