たんぺん

□甘くて酸っぱくて不器用で
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「あ、ジミーだ」

局長(ばか)を迎えにいく途中、万事屋のチャイナさんに出会った。

相変わらずの赤いチャイナ服に紫の傘、そして口にくわえた酢昆布。

「いや俺、ジミーじゃ…」

「私もチャイナって名前じゃないアル。おあいこネ」

…いいのかな。それで。まあ、俺もチャイナさんのことは名前で呼んでないしな。チャイナさんはチャイナさんだし。

「まあいいや。俺、局長(ばか)迎えに行くんでこれで」

足早にそこを立ち去ろうと思えばついてくる小さな足音。何なんだと振り向けば憎たらしい笑顔のチャイナさん。

「今、姉御に会ってきたとこアル。怒り狂ってて怖かったから逃げてきたネ。だから気をつけるヨロシ」

ちゃ、チャイナさんが恐れるほどって…。なにをやらかしたんだあのバカは。

「あの、チャイナさん…?」

「仕方ないから一緒に行ってやるヨ。酢昆布二箱アル」

…なるほど。優しさなんかではないんだな。
旦那のせいじゃないだろうな。普通の女の子は優しさを振りかざして酢昆布を頼んだりはしない…はず。

でも、怖いのに変わりはないし…。

「酢昆布たった二箱でいいなら。」

「およ?ジミーのくせに金持ってるアルか?じゃあ六箱に変更ネ」

…あ、墓穴掘った。

「…いいよ。それにしても、ホント酢昆布好きだね」

「この酸っぱさがくせになるネ。ジミーも食べてみるヨロシ」

そう言って差し出されたのは食べかけの酢昆布…。

えええええええええええええええええええええ!?なななな、なにこれ!たたた、食べかけ!?
か、間接キスとかそーゆー感じ?そーゆー感じだよね!

「冗談アル。新品やるネ」

「あ、なんだ…じゃなくて、そうだよね!よかった」

「期待したアルか?」

「はひぃっ!?」

「…きもいアル。少し離れて歩いて欲しいアル」

「え、そんなに?」

「でも酢昆布十箱くれるなら許してあげてもいいアル」


…あれ、俺ただこれ集られてるだけじゃね?さっきから一向に歩く気配ないし。

「…酢昆布っていくらでしたっけ。」

聞いてねーよ。ほんともうこれ、旦那の影響受け過ぎじゃない?俺の手に負えないよ。

「じゃ、さっさと姐さんのとこ行きましょう?」

「嫌アル怖いアル」

「はぁ…。じゃあ俺1人で行きますね」

「嫌アル酢昆布欲しいアル」

「じゃあ行きましょう?」

「嫌アル怖いアル」


…えー。なにこの心境の変化。急に行きたがらないんだけど。

「だからジミー、しばらくここでお話しようヨ」


甘くて酸っぱくて不器用で


しばらく道端でチャイナさんと話してたんです。訳の分からん会話でチャイナさんは俺をつなぎ止めたかったらしく…。それに気づいたらチャイナさんがすごい可愛く見えちゃって酢昆布買ってあげたりして…。チャイナさんもただの女の子なんだなと僕は思いました。
山崎退








2009.11.01
椚田星羅

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