▽拍手log

□繋ぐは唯一の温もりに
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郁の部屋で二人、二人掛けのソファーに座って、見るとも無しに点けられたテレビをぼんやりと眺めていた。流れて来る音も聞いているのかいないのか、まぁドラマの再放送なんて見ても見なくても同じだけれど…。

不意にオレ達の間にある郁の手が動いて、オレの手を掴んだ。そのまま指を絡めて繋がれたので、オレも握り返す。そして今度はオレが郁の肩に頭を擡げると、郁もまたオレの頭に自分の頭を乗せた。

トクン、トクン…と、少しだけ早くてでも心地良い鼓動が、お互いに聞こえて来そうな距離で寄り添い合う。

はぁ…と思わず溜息を吐いた。



「僕と居るのに溜息?」



少し不機嫌そうな声と共に、繋がれた手に少しだけ力が入る。拗ねてしまったらしい郁に苦笑して、擦り寄った。



「幸せだなぁって思ったら、ついね」

「不安?」

「…少しだけ、怖いなって」

「…そっか」



そしてまた、心地良い空気の中に沈黙。
けれど不意にそれを破ったのは、オレのケータイが鳴る音だった。

この時間を邪魔されて少しだけ不機嫌になる。



「ダメ、」



部屋の隅に置いた鞄からケータイを取ろうと立ち上がろうとしたのだけれど、郁は手を離してくれないどころか引き寄せて、立ち上がる事すら許してくれない。

ケータイはまだ鳴りっ放しだ。



「郁?」

「ダメだよ、今は僕と居るんだから」



出てはダメだと言う郁は、少しの寂しさと不機嫌さを滲ませてオレを見つめる。
繋いだままの手に、唇が寄せられた。



「他の奴なんて見ないでよ」



多分今赤くなっているだろう顔を少しだけ伏せて、身を乗り出したオレはその額にそっと口付ける。普段滅多にしない行動に緩く見開かれた彼の目は、次の瞬間には喜びを滲ませた。



「僕から離れないでね」

「ん、」



相手も漸く諦めたのか音が止み、また穏やかな時間が二人を包む。

そのままいつの間にか二人してうとうととし始めて、テレビを点けたままお互いに眠ってしまったのは別の話…。



安堵の吐息を漏らして

(優しい夢を見た気がする)
(郁の手が温かくて…)
(あぁでもそれは現実だ)



END

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