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□君の笑顔で始めよう
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正月、不知火神社には初詣にやって来た大勢の人で賑わっている。
その神社の鳥居の下で、待ち合わせ。



「悪い、遅れた」

「いえ、オレも今来たとこですよ琥太郎先生」

「へぇ、君、着物着て来たんだ」

「どうせ馬子にも衣装とか言うんでしょ、水嶋先生」

「とんでもない!似合ってる、綺麗だよ」



待ち人は学園の見慣れた教師3人組…の筈が、一人足りない事に気付いて周りを見回した。



「あれ、陽日先生は…?」

「来る途中で、僕達と同じ様に初詣に来ていた生徒達に捕まって…ほらあそこ」

「…なる程」



水嶋先生が指差した方に、僅かではあるが陽日先生らしき人影あった。オレと同い年くらいの奴等に引っ張られ、どんどんと神社の中へ入って行ってしまう。

年明け早々、可哀相に…。



「ま、僕達も参拝しに行きますか」

「…仕方ない、行くか」

「はーい」



境内までは少し距離がある、そこまで行くのにも大変そうだ。
あまりの人の多さに少し酔いそうだなんて思っていると、慣れない下駄の所為か石畳で躓いた。



「ぅわ!?」

「おっと、」

「あ、ありがとうございます…」



しかし咄嗟に水嶋先生が受け止めてくれたお陰で転ぶ事は免れた。

お礼を言うと、目の前には嫌に整った顔。
しかも、なぜか良い笑顔だ。



「ふふ、大胆」

「なっ!?何言ってっ」

「君から抱き着いて来たんだから、放さなくて良いよね?なんならこのままキスでも「郁、正月早々馬鹿な事は止めろ」…邪魔しないでよ琥太にぃ」



琥太郎先生のお陰で助かった。
先生は呆れた顔をして、水嶋先生を牽制した。水嶋先生は琥太郎先生の言う事ならば割と良く聞くらしい。



「まったくお前は…ほら、行くぞ」

「え?ぁ、わっ」

「あ、琥太にぃズルイ!」



琥太郎先生はオレの手を引いて歩き出した。骨張った少し大きな手が、なんだか安心して頬が緩む。



「また転んだり、この人混みで逸れたりしたら面倒だからだ。別に他意は無い」

「どうだか……あ、じゃあもう片方は僕と繋ごうか」

「へ?あ、はい」



するりといとも簡単に繋がれた手になんだかくすぐったく感じる。誰かと手を繋ぐなんて、何時振りだろうか…。



「…で、そろそろ放して貰えませんか?お賽銭投げられないし手も合わせられないです」

「あー…あぁ、悪い…」

「ちぇ、残念…」



二人共歯切れが悪そうに、残念そうにオレから手を離した。オレもなんだか、少し淋しいななんて思う。



「……よし、」



お賽銭を投げて手を合わせ、心の中で願い事を…。



「何をお願いしたの?」

「内緒です」

「え〜、教えてよ!」

「じゃあ先生達のを教えて下さい」

「それは無理だな」

「僕も」

「じゃあオレも秘密です」



今年も来年も
お前
と居られます様に…


(早く、俺のモノにしてしまおうか…)
(そうしたら、来年は君と二人で…)



END

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