▽拍手log

□雨濡れず距離近付く
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ポタリと落ちて来た空の涙…なんて、ロマンチックな馬鹿げた考えは今はどっかに放り投げた。

どしゃぶりだ、嫌な天気。
下駄箱で一人溜息を吐いた。
ただでさえ雨は苦手なのに、今朝は寝坊して傘を忘れた。朝は晴れていたから。
しかしこんな時に限って決まって雨が降る。
日頃の行いは悪くない筈なのに…(今朝直ちゃん先生の背をからかった事とかは関係無い、きっと)。



「走って帰るしかないか…、」



このまま此処に居ても、やむ気配は無い。
制服が濡れるのはいただけないが、どうせもう選択肢は無いのだ。
こんな事なら月子に待って居て貰うんだった…。



「あれ、どうしたの?」

「!水嶋先生、」



唐突に現れた人に驚く。
寝坊して傘を忘れたのだと説明したら、やはり笑われた。



「はぁ……じゃあ先生また明日、」

「傘無いんでしょ?どうやって帰るの?」

「走って」



そう言ったら、今度は溜息。



「呆れた…なんでそういう選択肢になるのさ」

「だって傘無いし、ずっとここに居る訳にもいかないから…」

「僕が居るのに?」



少し怒った様な声。
意味が解らず首を傾げた。

すると、また溜息。



「ほら、行くよ」

「ぇ、わっ」



小気味良い音と共に彼の手にあった傘が開かれた。
手を引かれて、気付けば傘の中。
肩まで抱かれて、距離が近い。
恥ずかしくて離れようとしたら、更に強く引き寄せられた。

そのまま、歩き出す。



「せ、せんせっ」

「だーめ、君はここ。僕から離れるなんて許さないよ?」



見上げれば優しく微笑むから、顔が熱くなる。



「…ありがと、郁」

「やっと呼んでくれた」

「だ、だって…、」



校内では他の生徒や先生に聞かれて居ないかとどうしても勘繰ってしまう。
でも今なら、雨の音で周りから隠してくれるから…。



「じゃあこんな事しても、バレないかな」

「?……、」



郁からされたのは、軽いキス。
一瞬状況が掴めず、固まってしまった。
でも直ぐに顔が赤くなる。



「な!?」

「あはは、真っ赤」

「誰かに見られっ、ん」



反抗したら、再び塞がれた口。
目の前には意地悪く笑う顔。



「傘で隠してるから大丈夫」



また歩き出して、寮までの短い距離。
別れ際に離れがたくて、寮に入る前にもう一度、傘に隠れてキスをした…。



送り狼一歩手前

(自分の部屋に入ろうとして)
(押し込められて強く抱き締められた)
(甘く囁く声に引き出される熱、)
(反抗する術なんて無い…)



END

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