季節小説
□卒業
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昌浩はこの春高校を卒業した。
学校は大学院までエスカレーター式なので受験勉強の苦労もなくボケらとしながらも4月から大学生である。
友達も殆ど一緒なので別離の寂しさなど知らずに済むはずだった。
そんなある夜、昌浩は祖父である稀代の大陰陽師安倍晴明の部屋に呼ばれた。
「昌浩や」
「はいはい悪い妖が出たのでしょう?行ってきますよ」
下手に逆らって体力を消耗したくない。
これから入学式までバイトもしたいし旅行にも行きたい。
やる事はいっぱいある。
昌浩は祖父に話の先を促した。
「わかっているなら話が早い。では英国まで行ってパッバ〜っと祓ってきなさい」
「英国?何かのお店ですか?」
「何を言っとる。英国と言ったらイギリスじゃろうが」
「え………?」
昌浩ばかりか隣にお座りしている物の怪も固まった。
「実はわしが若い頃留学先で懇意にしていた友人がイギリスの大学の学長をしておっての。以前から昌浩にも留学をと話があったんじゃ」
晴明が若い頃留学していた事も英国にそんな友人がいる事も初めて聞いた昌浩は意外にインターナショナルな祖父に驚いた。
「でも…そんな急に留学しろなんて」
「そうだぞ晴明。昌浩の英語の成績を考えたら嫌がらせとしか思えん」
「もっくん、まぜっ返すなよ。得意科目じゃないだけで一応平均だったんだから」
「そうだったか?」
ニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべる物の怪に頬を膨らませて抗議する昌浩。
このままでは話がどんどんズレていくので晴明は咳ばらいをして二人を制した。
「お前はまだまだ要修業で不安だらけで果てしなく心配じゃが一応陰陽師として一人前と周囲が認めつつある」
誉められている気のしない昌浩は遠い目をして祖父の言葉を聞いた。
「じゃが、このグローバルな時代に狭い日本で満足しては若者らしくないとは思わんか?」
「はあ…」
「そこで英国に留学して世界に通用する国際的陰陽師になってきなさい」
「世界にって…国際的陰陽師って何なんですか?」
慌てる昌浩。
その隣で座っている物の怪は顔色を変えて俯いた。
「あちらの大学は9月からじゃが早いうちに発って語学学校に通った方が良いかのお」
英国では学長が下宿先も世話してくれて頼れるから心配ないと晴明は一人で話を進めた。