季節小説
□雨宿り
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大反対のお父様や守護妖達(お母様は味方)を何とか説き伏せて私が東京の大学に入学して半年。
一人暮らしにもようやく慣れた。
世間を知るためなんてお父様達には言ったけど本当は彩輝の近くにいたいだけ…。
千年も遠距離恋愛なんて信じられない。
今は彩輝の傍にいられて幸せ…のはずなのになかなか会えない。
夏休み中も彩輝は忙しくてデートらしいデートもできなかった。
これでは東京に来た意味がないわ。
いっそ晴明様にお願いして彩輝と一緒に暮らそうかしらと思う。
だから今日はそれを彩輝に相談しようと待ち合わせする事に。
なのにまた彩輝から仕事で遅れるとメールが…。
どうしよう。
時間も中途半端だし雨も降って来た。
傘持ってないのに…と目についたのは一軒の喫茶店。
小さいけど洋館風で感じが良い。
ちょうど良いからお茶でも飲んでいこうかしら。
「いらっしゃいませ」
扉を開けると珈琲豆をひく良い香りがする。
ん?今のどこかで聞いたような声…。
「風音じゃないか」
「と…謄蛇?」
カウンターで珈琲を入れているのは確かに十二神将謄蛇。
白いシャツにタイ、黒いベストがソムリエみたい。
「あなたなぜ?」
「ん?知らないのか?ここは晴明が趣味でやっている店だぞ。普段は白虎がマスターやっているんだが今日は晴明共々仕事でいないんでな」
時々手伝っているんだと笑顔でカウンターの席を進められた。
店内は小さいけど英国風というのかモリスの壁紙を使った落ち着いた内装だ。
「お客さんいないのね」
「ランチタイムの後は少し暇になる。常連さんが多いんだ」
珈琲を注文してふとカウンターの隅を見ると小さい子供がせっせとお子様ランチを口に運んでいる。
「ま…昌浩?」
キョトンと今年4歳になる幼児は口をもぐもぐさせながら顔をあげた。
「かざね〜」
エヘヘと笑って手をふる。どうやらお子様ランチに夢中で今私に気がついたようだ。
「さっきまでお客がたて混んでたんで昌浩は今頃昼飯なんだ。悪かったなあ昌浩」
謄蛇が昌浩の頭をポンポンと軽く叩く。
「ううん、へいき〜」
嬉しそうに笑ってまたセッセとチキンライスを頬張る。