季節小説
□七夕
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「もっく〜ん」
物の怪が昌浩の部屋で丸くなっているとバタバタと昌浩が駆け込んできた。
「どうした?昌浩」
「あのね、あのね、じい様が短冊二つくれたんだ。もっくん一緒に願い事書こうよ」
「はあ〜?」
「明日は七夕だよ」
七夕はわかっている。
ここ数日、昌浩は直丁として陰陽寮で乞巧奠の準備で大忙しだったのだ。
一年に一度天の川で逢瀬を重ねる彦星と織り姫。
「七夕に短冊に願いを書くいて笹に飾るとその願い事がかなうって言われているんだよ」
「ただの迷信だろ」
「夢がないなあ。迷信だろうと気持ちが大事なの。それにじい様が清めた短冊だよ〜。何か普通より力ありそうじゃん」
それは確かに…。
「何を書こうかな〜?ねえ、もっくんは何て書く?」
昌浩は目をキラキラさせて楽しそうに頬を紅潮させている。
こんな時は本当に昌浩はまだまだ子供だなと思う物の怪だった。
「俺は…ちょっと考えるる」
そう言って物の怪は本性に戻って短冊を一つ持ち部屋から出て言った。
「もっくん?」
いざとなると本性になる程力が入ってしまう神将だった。
「晴明、今日吉昌は遅くなるんだったな?しばらく部屋を借りるぞ」
「何じゃい突然に」
それと…と練習用の紙を晴明から沢山もらって騰蛇は引き込もるべく吉昌の部屋に向かった。
「絶対誰も入ってくるなよ」
据わった目付きで同胞や晴明を威嚇しながら騰蛇は蔀を閉じた。