季節小説
□バレンタイン
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寒さ厳しき如月の…。
「寒いと思ったら雪だ」
昌浩はフッと足を止め、夜空を見上げて呟いた。
「積もると良いなあ」
昌浩は雪が大好きだった。汚れのない真っ白さが愛しい物の怪の毛並みを思い出させてくれて暖かい気持ちになる。
「昌浩?」
アルバイト帰りの謄蛇が昌浩に気がついて声をかける。
ちなみに今の謄蛇のバイト先は紅茶の美味しい喫茶店だ。
理由は一つ。
勉強や夜警で疲れた昌浩に美味しい紅茶を入れてやる為に修業しているのだ。
その前は蕎麦屋だった。
昌浩に美味しいお蕎麦を…以下略。
もちろん昌浩には言ってない。
「紅蓮」
昌浩は恋人の姿をみとめて嬉しそうに駆け寄った。
「おかえり紅蓮。お疲れ様」
「おかえりじゃない!こんな夜遅く出歩いて危ないじゃないか」
過保護な恋人は昌浩の夜の一人歩きを絶対許さない。
可愛い可愛い(ばい謄蛇)昌浩が暴漢にでも襲われたら大変だ。
「怒らないでよ。せっかく迎えに来たんだから」
自分を心配してくれている事がわかる昌浩は悲しそうに俯きながら呟く。
「またなんで…」
謄蛇は昌浩の痩身を抱きよせた。
案の定冷えきってしまっている。
「話なら家でできるのに風邪でもひいたらどうするんだ」
まだ少し怒気を含んでいる謄蛇に昌浩は小さく呟いた。
「もう少しで日付が変わっちゃうからその前に会いたくて…」
昌浩は、はい…これ…と可愛くラッピングされた小さな箱を差し出す。
「これは…?」
受け取りながら謄蛇は目を見開いた。
「バレンタインチョコだよ。天一に教えてもらって俺が作ったから味は保証できないけど」
最後の方は言葉にならないくらい小さな声で恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら呟く昌浩。
「嬉しいぞ昌浩。ありがとな」
謄蛇は破顔して昌浩を思いっきり抱きしめた。
「く…苦しいよ紅蓮」
真っ赤な顔のまま逞しい胸に顔を埋め自らも両腕を謄蛇の腰に回した。
あれ?
「紅蓮、コートのポケットがなんだかゴツゴツしているよ?」
などと言いながら昌浩は好奇心からポケットの中にスルリと手を入れる。
「こらこら」
「何これ?」
両方のポケットには綺麗な包みが無造作に数個入っていた。
ほのかに香る甘い香。
「チョコ?誰に貰ったの?」
こんな見るからに高級チョコ専門店のラッピング
ばかり。
「バイト先の女の子とお客がくれたんだ。全部食べて良いぞ」