季節小説

□雨宿り
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「なんかクレイマークレイマね。お家に誰か昌浩を見てくれる人いないの?」

「風音、お前学友に歳がばれるぞ。いや今日は天一達が見てくれるはずだったんだが」

「ちがうよかざね〜。俺がようちえんのバスをここに停めてもらったの」


謄蛇と一緒にいたくて家ではなく謄蛇の仕事先に来たのだと幼児はまだよくまわらない舌で説明した。


「まったく仕方のない奴だ。俺が店にいるとすぐこっちに来るんだから」


何て謄蛇は口では言っているけど鼻の下伸びまくっている。

それに昌浩の座っている椅子。
謄蛇の特製昌浩専用子供椅子じゃない。
持参しているわけ?。


「だってれ〜んと俺はいつもいっしょだもん」


ね〜と昌浩がニッコリ微笑めば謄蛇は「人前でよせよ〜」と言いながら顔を赤くして昌浩の口の回りのケチャップを拭いてやる。
惚気る幼児に照れる大男。
謄蛇の日頃とのギャップがちょっとキショイわ。


「ブレンドお待ちどう」


謄蛇がマイセンのカップに珈琲を入れてくれた。


「美味しい。謄蛇やるじゃない。こんな美味しい珈琲初めてかも」

「そうか?褒めてもらった礼にチーズケーキはサービスだ」


これも謄蛇の手作りだという。
もちろんかなりの美味。


「謄蛇は何でもできるのね」

「そういうわけじゃないが俺には時間だけはあったからな。昌浩を待つ間、何が昌浩の役にたつかわからないから何でもマスターするようにしていたんだ」


昌浩の頭を撫でながら謄蛇は目を細めて微笑んだ。
いつ生まれ変わるかわからない恋人を想っている間も恋人の為にできる事を考えていたなんて泣かせるわ。


「れ〜ん、俺も〜俺もしょくごのこ〜ひ〜」


幼児がポスポスとカウンターを叩いて催促した。


「駄目だ。お前はミルクだ」

「う〜〜」


睨む幼児の前にホットミルクを置く謄蛇。
大人の真似をしたい昌浩は不満げだけど仕方なくフウフウと冷ましながらミルクを飲み始めた。


「はちみつあまいね」


素直な幼児はすぐに機嫌をなおしてニッコリ笑う。
こんな昌浩を見ていると私でも可愛いと思うんだから謄蛇なんて失神するんじゃ…あれ?謄蛇?。


ドクドクドク


謄蛇は既に店の床に鼻血を出しながら昏倒していた。


 
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