novel

□氷雪
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※花葬列番外編







窓の外はポインセチアが咲き誇っていた
赤い、花が

「……もうクリスマスね、セバスチャン」

柔らかな声がして、私はそちらを振り向く
ベッドの上で半身を起こした彼女
毛布に隠された白い肌になだらかな黒髪が体を伝っていて、とても妖艶でそれ故に儚く見える

「いつから、起きてらっしゃいましたか?」
「今さっき」

ふふ、と彼女は笑い私を手招きした
彼女に近づくと彼女は微かに笑い、私の肩に頭を埋める

「お嬢様?」
「……そう呼ばれるのは嫌いだわ」

珍しく甘えるような声音で、彼女は再び私を呼んだ

「どう、なさったのですか」
「……いえ、わたくし、クリスマスを貴方と二人で過ごすなんて初めてだから」

私はゆっくりと彼女の髪を指先で愛おしむように梳かした
悪魔らしくもなく、慈愛に満ちたような仕種
前主人が知ったら失笑するであろう、仕種を

「セバスチャン?」
「……いつものように過ごせば良いのです」
「そうね」

彼女があ、と小さな声を漏らした
窓の外を見れば雪
真白い雪が降っている
単なる雪でしかないそれに彼女は幸せそうに笑った

「わたくしは雪が好きなの、セバスチャン」
「何故ですか?」
「教えないわ」

悪戯っぽく微笑む彼女
私はそんな彼女を再びベッドに押し倒す
首筋に柔らかく噛み付くと彼女が小さな声を漏らした

「っ、セバスチャン」
「なんですか?」
「愛してるわ」
「私もですよ」

嘘臭い愛を囁きながらシーツに溺れていくように抱き合った
視界の端に僅かに映る景色
やはりポインセチアが白い雪の中、燃え盛るように咲いていた


氷雪に散る花びら
それは今でも慈愛に満ちて花の香りと共に輝いている

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