パラレル

□泡沫の恋
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ある夕暮れ時のことでした。

薔薇の花が咲き乱れる庭園で、雲雀は考え事をしていました。

消えてしまった天使のことが気がかりだったのです。

あの天使はどうしているだろう。

そんなことを考えていると、不意に人の気配がしました。

顔を上げると、そこには少女が立っていました。

儚い隻眼の瞳を持つ少女から、雲雀は目が離せなくなりました。

そう、雲雀はその少女に恋をしてしまったのでした。




少女の名は凪といいました。

雲雀がピアノを弾くと、凪が歌います。

それは春風のような、美しい歌声でした。

凪は雲雀が弾くピアノの音色が好きでした。

雲雀は彼女の歌声と、歌うときの彼女の優しい表情が好きでした。

「君はピアノの音色が好きなんだね。」

「はい、美しいですから。
 穏やかな気持ちになれるの。」

「ふぅん。」

そう言ってまたピアノを弾き始める雲雀は、本当に嬉しそうに微笑みました。

そんな彼の笑みにつられて、凪も微笑みました。




雲雀は凪を連れて、屋敷を出て行くことを決めました。

凪は何のためらいもなく雲雀が差し出した手をとりました。

まるでそうされるのをずっと望んでいたように。




雲雀が凪のために買ってきた指輪は、凪の白い指に大きさがピッタリでした。

左手の薬指に収まる、細かい花の細工が施された指輪は、

凪によく似合っていました。

毎日幸せそうにかざして眺める凪を、雲雀は抱きしめるのでした。




それは突然の出来事でした。

凪は街に買出しに行っていました。

雲雀は凪の帰りを楽しみに待っていました。

今日の夕食は二人で何を作ろうか。

雲雀がそんなことを思っていた時でした。


雲雀の体を衝撃が襲いました。


あぁ、撃たれたのだ、そう思ったときにはもう遅く。

雲雀は、雲雀の体は、ぐらりと傾きました。

薄くなっていく意識の中で、雲雀は凪とあの天使のことを考えました。




凪が家に帰ると、そこは血の海でした。

駆け寄って雲雀を抱きしめると、彼はもう冷たくなっていました。

雲雀の口の端から出ていた血を拭い、凪は小さな声でつぶやきました。

「ごめんなさい」

凪はこれが誰の仕業かわかっていました。

それが自分のせいであることも。

雲雀のほほに、ぽとり、と凪の涙が落ちました。

それと同時に、雲雀の目が薄く開きました。

彼は生き返ったのです。

「きみ、は…」

雲雀は、驚きの表情を隠せませんでした。

なぜなら、雲雀を抱きしめている相手は――

         
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