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□叶わない願いを望んでしまうのは春の所為
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いつだったか、骸が僕に話してきたことがあった。



「僕はね、雲雀君、日本の四季はとても美しいと思うんですよ。」


「・・・そうだね。」


春の明るい日差しの中、骸と雲雀は雲雀の別荘の縁側に座っていた。

庭に一本だけ植えられている桜の花は、満開で、そよ風に時々揺られていた。

骸は愛しげに雲雀を眺めながら、柔らかい黒髪の頭をなでた。

子供のような扱いにむっとしたのだろうか。

10年前よりも短い前髪のおかげで、

よく見えるようになった鋭い目が不機嫌そうに骸を見た。


「春夏秋冬・・・どの季節も魅力的ですが、

 やはり春が一番ですね」


「ふぅん・・・僕は嫌いだよ。

 桜を見ると、君を咬み殺せなかった屈辱がよみがえるからね。」


「おやおや・・・でももう今の君は、
 
 僕よりも実力が上かもしれませんね。」


そういう骸に、雲雀は何も答えることが出来なかった。

骸の本当の体は復讐者の最下牢の中にある―

体力が落ちているだろうことは予想できた。


雲雀の表情から思っていることがわかったのか、

骸は静かに口を開いた。


「大丈夫ですよ・・・

 君が思っているほど、状況は悪くはない。

 ・・・ただ、」





「あそこは少し、寒いですね。」





ポツリ、とつぶやいた言葉。

それは骸の、珍しい本音だった。

雲雀が骸の顔を見ると、彼は儚く微笑んでいた。

思わず雲雀は骸の肩に顔をうずめた。



「僕は、」



――やっぱり春が嫌いだよ――


声には出さずに、唇だけ動かした。







・・・だってそんな風に笑う君を、
    風に舞う桜の花びらのように連れ去ってしまいそうだから。






(叶わない願いを望んでしまうのは春の所為)

どうか、彼に。

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