パラレル

□泡沫の恋
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むかし、むかし、あるところに、人間をとても嫌う天使がおりました。

天使は、何故神が人間を生み出したのか理解できませんでした。

私欲にまみれ、嘘をつき、他人をおとしめる。

そんな人間達が憎くて仕方がありませんでした。

人間を愛する神は、罰として天使を下界に降ろしました。

天に帰れないように、翼に傷をつけて。




ある夕暮れ時のことでした。

傷ついた天使が狭い路地でうずくまっていると、不意に人の気配がしました。

顔を上げると、そこには少年が立っていました。

意志の強そうな、黒くて綺麗な瞳を持つ少年から、天使は目が離せなくなりました。

そう、哀れな天使はその少年に恋をしてしまったのでした。




少年の名は雲雀といいました。

雲雀は天使の傷の手当だけではなく、歌やお話など、さまざまなことを教えてくれました。

雲雀はピアノを弾くのが好きでした。

天使はその音色と、演奏しているときの彼のやさしい表情が好きでした。

「君はピアノの音色が好きなんだね。」

「えぇ、美しいですから。
 穏やかな気持ちになれます。」

「ふぅん。」

そう言ってまたピアノを弾き始める雲雀は、嬉しそうに微笑みました。




それは本当に偶然でした。

珍しく声を荒げる雲雀の声が聞こえたので、

天使は興味本位に立ち聞きしてしまいました。

雲雀には許嫁がいたのです。

雲雀は許嫁に会わずに天使のためにピアノを弾いてくれていたのでした。

両親と口論をする彼を見て、天使は思いました。

彼は幸せではないのだと。




その夜、天使は眠る雲雀の額にキスを落とし、彼のもとを去りました。

朝目覚めた雲雀の部屋には、朝日に照らされて輝く、

白い羽根が一枚落ちていました。

               
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