月下の記憶
□月下の記憶 第一夜
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時は江戸時代。
武士が政治を治めるこの時代、
六道骸は江戸の町で小説家として活躍していた。
『辻斬り、また現る』―
最近、江戸の町では、辻斬りの噂で持ちきりである。
「・・・江戸は随分物騒になってきましたねぇ・・・・・・」
街中での張り紙を見て、骸はため息をついた。
「骸様ー!!」
向こうから凪が骸に手を振る。
凪を見失ってしまい、探していた骸は、それに笑みで答えた。
「良かった・・・ふと隣を見たら骸様、いないんだもの・・・」
そういって困ったように笑う凪だった。
凪は1年前、骸に拾われた少女だ。
骸の事を恩人として、“様”と呼んでいるのだが・・・
「恥ずかしいのでそれ、やめてくれませんか?
僕はそんなに立派な人ではありませんよ。」
「そんなっ、恐れ多いですっ!!」
ぶんぶんと首を振る凪がかわいらしくて、
骸は少し笑ってしまった。
「そんなことより、早く歌舞伎を観に行きましょう♪」
ゆっくりと歩く骸をせかす凪。
やれやれと、骸は歩くスピードを速めた。
そんな二人が微笑ましいのだろう、
通行人が微笑みながら去っていく。