聖皇女コーネリア
□第1章
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神官は最高位の聖神官以下、一等、二等という風に数字の小さい順で位が高くなる。
二等神官の位を持つこの男は、神聖教でもかなり上位クラスの者だろう。
「先程も皇帝陛下に申し上げましたが、皇女殿下も今年で十六を迎えられ、試練をお受けになられるお年となりました」
使者のその言葉に、コーネリアはゴクリと唾を呑む。
ついにこの時が来た……、と思った。
「ミラネ様の占いの結果、皇女殿下が旅立たれるのに良い日は、三日後……六の月十二日と出ました。つきましては、殿下には直ちに、旅立ちの準備を整えて頂きますよう、お願い申し上げる所存です」
ミラネ様とは、現聖神官の事である。
四年前、実母である先代の早世により、八歳という幼さで今の地位を継承した、神聖教の最高指導者だ。
「うむ。早急に手配させるとしよう」
皇帝が鷹揚に頷く。
一方コーネリアは、旅立ちまで後三日しかないという事実に、軽い衝撃を受けていた。
――そんな……、たったそれだけしか無いなんて……。
家族と共に過ごせる期間が、残り僅かしか無いのが、とても悲しくて堪らない。
旅に出てしまえば、もう二度とここに戻って来られないし、愛する家族にも会えないのだから……。
だからといって、旅立ちを拒むつもりは無かった。
自分が女神の試練を受け聖皇女となり、忌むべき魔の王を封印するのは、生まれた時から……否、生まれる前から決まっていた運命である。
愛する民達を、世界中の人々を、そして大切な家族を守る為ならば、この身を犠牲にしても構わなかった。
「……分かりました。この世界を救う為、三日後にこの宮殿から旅立ちますわ」
決意を込めてコーネリアが言う。
「皇女殿下ならば必ずや、憎き魔の王を封じて下さると信じております。それでは我々一同、大神殿にて殿下のお越しをお待ちしています」
最後に使者は、一本の古い巻物を取り出した。
「こちらは初代聖神官マリアンナ様が書き記したと謂われる、試練の旅をする上での心構えが書かれた、秘伝の巻物でございます。どうかお納め下さいませ……」
恭しく差し出されたそれを、文官が受け取る。
それで謁見はお開きとなり、深々と礼をした後、使者は退室していった。
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